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第四章 Over the Horizon 17

祖父じいちゃんに見つかる前に、顔洗いに行こ」

 子犬を抱いた弟と兄の二人は、母家の方に歩いて行く。

 松の木の枝が、風もないのに揺れた。

「兄が上月こうづきむらさきで弟が咲也さくやや、六才と四才。仲良さそうな兄弟やんか。見てるだけで、微笑ましくなるっちゅうやつやな。じいちゃん言うのは、上月の当主のことやろな」

 松の木に枝に立って幹に腕をついている東大寺とうだいじの隣で、愛美まなみは枝に腰掛けて足を軽く揺らしながらポツリと言った。

しくも、近藤愛美が死んだ年齢と一緒ね」

 東大寺が愛美を見下ろしているのが、気配で分かる。

「まさか、あんなチビどもまで殺すん?」

 東大寺は笑いで誤魔化したが、その目は真剣だった。

「当然の報いだわ。内部分裂の那鬼なき達のグループにこれ幸いと、汚い役目を押しつけた。自分達は知らぬ存ぜぬで通して、夜久野やくのの滅亡から目を瞑ったのよ。自分達に関係あることだって、すぐに分かった筈なのにね。あの子達が死んだら、少しは思い知るわよ。殺しに加わっていなくても見ないふりをしたのは、夜久野の抹殺に手を貸したのと変わらないんだって。当然の罰よ」

 白い陶器のような膚をして、愛美の唇は微かに震えていた。寒さの所為ばかりではないだろう。

 幼い子供達の幸せそうな姿は、愛美の心を再び憎悪で染め上げたようだ。

 子供らの喜びが、似たような年頃で惨たらしく殺された子供の死の上に成り立っていると思えばこそだった。

 東大寺は溜め息を吐いて、愛美の横に腰を下ろした。

「確かに、愛美ちゃんの中に目覚めた憎しみと言う魔物は厄介やな」

 愛美がビクリと肩を震わせる。東大寺の大きな手の平が、愛美の肩を抱き寄せたのだ。

 頭を抱え込まれるようにして、東大寺の肩の温もりを頬に感じながら愛美は身体から力を抜いた。

 暫くそうしていると、心が落ち着いた。東大寺がおもむろに切り出す。

「憎しみの循環法則って知ってるか? 憎い、だからその相手を精神的肉体的に痛めつける、相手は自分を痛めつけた人間を恨む、復讐されたらまた相手を憎む。悪循環のエンドレスループや。抜け出すには」

 東大寺はそう言って、右手を鋏の形にして何かを切るジェスチャーをした。

「自分の正義を人に押しつけたらあかん。那鬼は、上月家を至上にした尺度で正義を測った。だから、夜久野一族の大量虐殺なんて真似をした。神坂かんざか大和やまと瑞穂みずほの兄妹は、植えつけられた打倒夜久野と言う正義の為に、全てを奪われた自分達と同じ目に愛美ちゃんを合わせた。それで今度は愛美ちゃんが、復讐の為に幼い子供を殺すのを正義やと言う」

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