第四章 Over the Horizon 14
敵の本拠地であるとともに、愛美の故郷でもある筈だった。愛美が六歳の時、那鬼達が夜久野一族を滅ぼす前まで住んでいたことになる。
大阪駅から京都駅まで、特急で一時間とかからない。叡山鉄道鞍馬線に乗り換えて、市原と言う駅で降りた。先日訪れた吉野の方が、駅は立派だった。
何しろ、差し掛け屋根があるきりのホームが一つだけだ。
京都の町並みを見れば何か思い出すかとも思ったが、幼い頃の記憶に繋がりそうなものは何も見つからなかった。
京都と言うと、古い雅な佇まいを何処でも見られるのかと思っていたので、愛美が少しがっかりしたことは言うまでもない。
東大寺は、周囲を呆然と見回している愛美に、先輩ぶるように言った。
「古都京都って言うイメージと、全然ちゃうわな。俺も京都でちょっとの間暮らしてたから、観光案内したってもええけど。先に仕事を済まさんなんからな。さっさと終わらして明日は、帰るまであちこち連れてったるわ」
東大寺はそう言いながら、タクシー乗り場でタクシーを捕まえて、愛美と自分のバッグを後ろに積んでもらっている。
「上月家のあるらしい辺りは、山ん中もいいとこやし」
市原バイパスに乗って、西に向かう。バイパスを抜ける前に、北に進路を取るらしい。
「おっかしいなーっ。綾瀬に渡された、上月家までの地図なくなってるわ。まあ、ここまで来たら何とかなるやろ」
東大寺は車の中で、懸命にシャツやズボンのポケットを探っていたが、やがて諦めて顔を上げた。東大寺はそう言うが、愛美は任せる気は更々なかった。
東大寺が迷子になるのは、そのアバウトな性格の所為だと綾瀬に教えられたのだ。
綾瀬も綾瀬だろう? それを知っているなら、地図は愛美に渡せばいいのに。
愛美は渋る東大寺を説き伏せて、タクシーの運転手からケータイを借り受けた。
学生には不要と家の方針でケータイがないことに馴れている愛美だし、日常的にはなくても不便はなかったが、変則的な動きをする時にはないと不便だ。
後部シートでゴチャゴチャやっていたので、不信感もあったのだろう。これも、貸し渋る運転手に、東大寺に超能力を使ってもらう。
東大寺が力を振るう場面に二度立ち合っているものの、愛美はそれどころではなくて彼がしたことははっきりと覚えていない。
よく見るのは、これが初めてだ。東大寺は、路肩に車を停めさせた。