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第四章 Over the Horizon 13

『申し訳ありませぬ。あまり家を空ける訳にはいかない身で、今度改めて伺ってもよろしいでしょうか』

 とおるは、世辞ではなく心からそう思って言った。女の言葉が、ただの社交辞令ではないことが分かったからだ。

『次の機会には、貴方の弟さんもどうぞお連れになって下さい。風の便りに、随分忠義心の強い方だと伺っております』

 夜久野真央やくのまおの言葉に、亨は沈んだ表情を見せた。弟のやろうとしていることを止められるほどに、亨はあきらのことを知らない。

『今日はお話があって伺いました。単刀直入に申します。新年の託宣で上月こうづき夜久野両家の滅亡が予見されました。橙次とうじ様はそれは詮方ないことと思われておりますが、上月の眷族の内で不穏な動きがあります。夜久野に滅んでもらおうと・・・』

 女は、幼い後ろ姿を見つめたまま静かに知っていますと答えた。亨は軽く狼狽する。

『それでは・・・』

『滅ぶのもまた運命。陰陽師の世に、幕を下ろすまでの時間稼ぎにはなりましょう。あの子を道連れにするのは可愛そうですがね』

 静かな横顔。

 亨はいたたまれなくなって顔を伏せた。

 女は突然口調を変えて、葉を落とした寒そうな裸木はだかぎを指差して何の木か分かるかと聞いた。

『桜ですか』

『桜の頃に一度おいでなさい。それは見事ですよ』

 女は、亨の目を見て優しく笑った。その優しい瞳の中に凛としたものを認め、亨は女の持つ強さを垣間見た気がした。

 女が突然、あらと声を上げた。視線の先で、彼女の孫が派手に転んだところだった。

『私に似て気が強くて、滅多に泣かないのよ。まだ乳呑み子の頃で、両親ともども失って私が育てたようなものだから、私を母のように慕ってくれてね』

 孫を優しく見守る祖母の顔をしている。

 夜久野真央の言う通り、少女は泣きもせずに立ち上がると汚れた服を払っている。確か、夜久野の当主の孫は呪力がなく、当主の地位には程遠いと専らの評判だった。

 亨が六歳の時には、とっくに呪法の一つも行えた。陰陽師の一族に生まれた落ちこぼれとまでは言わないまでも、突然変異でも見るように亨が少女を見ていることに真央は気付いたのだろう。

『あれは大切な私の孫です』

 ピシャリと言われて、亨は思わず首を竦めた。しかし、夜久野の当主はすぐに表情を緩めると呟くように言った。

『私の全てです』

  *

 京都には上月家だけでなく、夜久野家がある。上月家が北部なら、夜久野家は南部の奈良寄りだ。

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