表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
119/160

第四章 Over the Horizon 8

――巻キ込マレヌヨウ、ソノ者ヲ守ッテヤレ

――自分ヲ信ジルノジャ、誰モ助ケテハクレヌゾ

 姿は一つだが、声はそれぞれ違う右近と左近のものだ。

(自分を信じる? 私にとって大切なもの? 家族も友達も思い出も、大切なものはみんな失ってしまった)

 愛美まなみにとっての家族は、この場合近藤愛美としての家族だ。夜久野真名やくのまなとして生きた記憶は、愛美にはない。ほんの断片しか・・・。

 那鬼なきが右手を軽く振ると、一振りの太刀が現れた。

 日本刀を構える那鬼の顔には、少しばかり緊張があった。

 対峙して睨み合うこと数秒、先に仕掛けたのは那鬼の方だった。刀の刃と、山犬神の牙が火花を散らしてぶつかり合う。

 離れて立っているのに、激しく震えた空気に露出した膚がヒリヒリと痛む。そうこうしている内に、手の甲に血がにじみ始めた。

(自分を信じる)

「お願い、守って」

 愛美は、思わず両手を組んで祈りを捧げるような格好をした。愛美は閉じていた目をそっと開いた。

 愛美と東大寺とうだいじを包むように、半円の防御結界が張られている。

(大丈夫。私にもできる)

 気を抜くと、薄れそうになる結界を愛美は心を落ち着けて維持した。

 那鬼の左腕を、山犬神の爪が凉った。血が飛沫になって飛び、那鬼の日本刀が山犬神の片耳を削いだ。

 戦況は、五分五分と言ったところだ。

 彼らの戦いが熾烈さを極める程、辺りの空気が歪み、ビリビリと音を立てる。

 愛美の結界に、亀裂が生じ始めていた。愛美の全身から汗が吹き出す。辺りの空気は冬の到来を告げる北風の所為だけでなく、二、三度気温が下がったような感じがするにも関わらずだ。

 愛美は歯を食い縛って、膝から力が抜けそうなのを必死で堪えた。

「愛美ちゃん。無理したらあかん。俺まで守ってる所為で余計な力を浪費しとるんや。愛美ちゃん一人やったら、この場を切り抜けられる。俺のことなんか気にすな」

 愛美は東大寺を振り返って、小さな子供のように首を横に振った。泣きそうになっている愛美よりも、東大寺はもっと辛そうだった。

(私にとって大切なのは、過去か未来か。過去は大事だけど、いつまでもしがみついてることはできない。未来がどうなるかなんて、誰にも分からない。私にとって大事なのは・・・紫苑の笑顔、長門の仏頂面、東大寺の明るい声、弟のような巴・・・そして綾瀬)

 そこまで考えた時、愛美が張った防御結界はシャボン玉のように弾けた。

 その途端、劣化し、氷のように冷えきった空気が膚を裂いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ