第四章 Over the Horizon 3
「ううん、って言うか・・・。主役のあの健気さ、みっともないとこも含めて好きやけどな」
ちょっと照れ臭そうに笑う東大寺に、愛美は勇気付けられるような気がした。
*
愛美は空港のロビーで手持ち無沙汰に佇みながら、横目で電話をしている東大寺を眺めている。
大阪の伊丹空港に到着し、東大寺は綾瀬に那鬼の足取りを確かめる為に、東京の綾瀬に連絡を取った。
「ドンピシャ、那鬼は午後から仕事を空けとる。京都は奴のテリトリーやから、できれば大阪駅までで奴を捕まえやなな」
東大寺はそう言いながら、メモした紙に視線を落とした。
「上月商事大阪支店。行くで」
東大寺も愛美も、スポーツバッグ一つの軽装だった。暖房の効いたロビーからタクシー乗り場に出た途端、愛美は冷たい風に首を竦めた。
秋が終わり、冬になろうとしている。コートにはまだ時期が早いが、もう一枚中に着こんで来れば良かったと愛美は後悔した。
「人通り多いわぁ。こんなとこで、問題起こす訳にはいかんか」
東大寺はタクシー代を払って車外に出ると、辺りを見回しながら考え込むように顎を撫でている。
「やったら、呼び出すだけや。覚悟決めときや」
東大寺はそう言うと、さっさと上月商事大阪支店の表示のある自動ドアの中に滑り込んだ。
愛美は展開の速さについていけず、そんなぁと呟いて顔面を蒼白にさせる。
――案ズルヨリ生ムガ易シ
――人事ヲ尽クシテ天命ヲ待ツ
右近と左近の声は聞こえたが、姿は見えなかった。
東大寺は受付の案内嬢に、何か尋ねている。暫く話をした後、案内嬢は傍らの電話を取り上げた。
それと呼応するように、東大寺が外に出て来た。指で丸を作っている。OKと言うことらしい。
「この近くに公園があるらしい。取引先の重役や言うて、話があるからってその公園前の喫茶店を指定した。他人を巻き込むのは嫌やからな」
東大寺はそう言うと、その公園には向かわずに建物の陰に隠れるように路地に入った。愛美もそれを真似ながら、寒空の下を歩いて行く人の流れを見ていた。
吹き溜まりになっているのか、路地には風は入ってこない。
「そんな作り話を、あの人よく信じたわね」
東大寺はどう見ても未成年で、着古したデニムにトレーナーを着て、上に派手な柄のシャツを羽織っているような格好だ。誰でも疑うだろう。
「そりゃ催眠術。これでも俺、超能力者やからな」