第四章 Over the Horizon 2
「知らん方が、ええこともある。自分の兄の所為で両親が死に、那鬼にも騙されとったと知るより、愛美ちゃんには可愛そうやけど、何も知らずに夜久野を恨んでる方が、彼女は救われとるんちゃうかな」
東大寺の言葉に、愛美は少年の意外な面を見たような気がした。そう言う考え方もあるのだ。知らないままの方が幸せなことも・・・。
でも愛美は、例え苦しむことになっても、全てを知りたいと思う。
「そうですね。彼女を殺したのは、夜久野真名である私なんだし」
愛美の言葉に、東大寺は慌てて首を振った。
「愛美ちゃんの所為やない。傷の方は致命傷を免れとった。ただ、彼女には生きようとする意思がなかったんや。兄の後を追うように、衰弱して今朝早く亡くなったらしい」
大和は那鬼を心底敬愛していたようだが、瑞穂はどうだったのだろう。
大和の信頼を裏切るような、那鬼の残酷な言葉の数々。
瑞穂は那鬼を憎んでいたのだろうか、今となってはそれは誰にも分からない。
「瑞穂さんと大和さんのことは、可愛そうだとは思うけど、悲しくはないんです。憎くはないけど、虚しさだけが残った感じ。今回のことで私、自分がとても醜い人間だって分かったの。私、東大寺さんみたいに他人の為に泣けない」
東大寺は愛美の言葉に苦笑い洩らすと、愛美の方に身体を乗り出して、本格的に笑顔になってウィンクした。
「みっもないやろ。大の男がボロボロ泣いてんねんもん」
愛美は本気で、そんなことはないと首を振った後、でもと付け加えて悪戯っぽく笑った。
「猫ロボットには笑ったけど」
東大寺は、一瞬思考がショートしたらしい。我に返った東大寺は、巴の奴めと悔しげに拳を握り締めている。
「どいつもこいつも、俺の過去を暴露しやがって」
東大寺が、あんまり真剣に怒っているので、愛美は何だかおかしくなってしまって声に出して笑っていた。東大寺が、愛美の顔を見てホッとしたような顔をする。
「やっと、笑ったな」
愛美はハッとする。
「気張らんでも、その時になったら結構なんでもうまいこといくもんや。案ずるより生むが易しってな」
愛美は、那鬼と対峙することを考えると、緊張で顔が強張るのだった。それに東大寺が瑞穂の話をしたので、愛美の心は暗くなるばかりだった。
東大寺の気遣いを嬉しく思いながら、作り笑顔ではなく心からの笑顔で笑った。
「あのシリーズ、好きなんですか?」




