表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
110/160

第三章 Fallen Angel 33

「その目!」

 右近うこんの左目は、閉じられたままだ。愛美まなみの手を嫌がって、右近は顔を背けた。

――〈明星あけぼし〉ハ、結界ニ守ラレテオルノカシテ、我等ノ力デハ何処ニ在ルノカ分ラヌ。守護者ガ聞イテ呆レル

 左近さこんにしては珍しく、苦々しげに言った。

「大丈夫。何としてもこの手に取り戻してみせるから。明後日にはあの男を追って京都に行くわ」

 右近と左近が愛美に初めて会った時から、僅か一ヶ月ばかりで格段と成長した愛美の姿を、二匹は頼もしそうに見つめた。

――アノ時ハ不覚ヲ取ッタガ、次ハ目ニモノ見セテヤル。コノ左目ノ礼、篤ト味ワワセテヤラネバナ

――京都・・・カ。〈明星〉ガ其方そなたノ手ニ戻レバ、我等モ山ニ戻ロウカノ。山ニ帰ッテ墓守リデモシテ、余生ヲ静カニ過ゴスノモ良カロウ

――街ノ喧操ニモ飽イタシナ

 右近と左近の言葉に、愛美は顔を曇らせた。この一ヶ月、着かず離れずの距離を保っていた二匹の山犬神達は、溝を感じることもあったが、誰よりも近い存在だった。

 だが元はと言えば、彼らは愛美の目付役のようなものだ。右近と左近には、帰らなければ行けない場所がある。別れなど意識していなかっただけに、愛美は少し狼狽うろたえた。

 彼らが例え犬であっても、仲間にはなれなかったのだと愛美は自分を納得させる。

「それじゃあ、私を〈明星〉に相応しいと認めてくれたの?」

 愛美がちょっと意地悪に右近にそう聞くと、右近は肩を竦めた。

――仕方アルマイ。〈明星〉ガ、其方ヲ主ト認メタノデハナ

 愛美は、両手で二匹の頭を抱え込むと抱き締めて頬ずりした。

「側にいてくれてありがとう」

 山犬神達は満更でもなさそうな顔をしているが、右近は照れ臭いのか減らず口を叩いた。

――無事取リ返シテカラ言エ

 左近が鼻をヒクヒクさせていたが、右近もそれを真似るかのように鼻を動かした。

――血ノ匂イジャノ

――アノ男カ

 二匹はすぐに興味を失ったらしい。ベッドに蹲ると、目を閉じた。

(血の匂い?)

 愛美の鼻には何も感じられないが、犬の鋭敏な嗅覚は何かを感じ取ったのだろう。別に危険なものではないらしい。

 愛美はベッドを下りると部屋を出た。玄関で靴を脱いでいたのは、長門ながとだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ