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第三章 Fallen Angel 25

 兄には見透かされているのだと言う気分は、拭えない。

『集まってごちゃごちゃしている間は、構わないがな、事を起こすならそれなりの覚悟をしろよ。橙次とうじ様の意思に背くことはつまり、謀反にも等しいのだからな』

 振り返った兄の目は、あきらを見ているようで見ていない。

 いつからだろう。兄が晃を面と見なくなったのは・・・。晃など眼中にないと言いたげだ。

 兄が桐生きりゅう家の長を継ぐのは、ごく自然なことだろう。能力も力量も、人の上に立つのに相応しい支配者としての器も、晃より上であることは認めざるを得ない。

『一族から放逐されたくなければ、気を付けろ』

 兄の言葉には説得力がある。兄がやると言えば必ずやるだろう。

 晃は不意に強く、兄さえいなければと思った。今まで押し込めていた感情が、溢れ出したと言ってもいい。兄は間違いなく、自分ひいては自分達の計画の邪魔になる。

 なぜもっと早く気が付かなかったのだろう。兄を出し抜くには、自分が兄になればいいのだ。

 ほくそ笑んだ晃の顔を横目で見ながら、兄のとおるは一瞬憐れむような表情を覗かせた。晃は自分から先に兄の元から離れる。

 なぜか気分が晴れ晴れとした。ようやく兄の呪縛から解き放たれたようだった。

(気を付けるのは、兄さんの方だ)

  *

 ともえは勝手知ったる他人の家といった足取りで、綾瀬あやせの社長室へと西川の案内も待たずに入って行った。

 タクシー代は、巴が出してくれた。小学生が無造作に財布から万札を出した時は、愛美まなみも流石に驚いたが・・・。

「やってくれたな、巴」

 扉を開いて入ってきた巴と愛美に、綾瀬が発した第一声だった。しかし、そのやってくれた張本人の巴は涼しい顔をしている。

(この子、将来大物になるわね)

 愛美は、場違いにもそんなことを考えていた。

「病院からの電話には、私の判断で退院にしてもらった。ぶり返して倒れて入院したいと言っても、私は何もしないぞ?」

 綾瀬はいつ見ても、隙のない服装をしている。休みの日の愛美の父親のように、Tシャツとスゥエットのようなラフな格好をしている綾瀬など想像がつかない。

 綾瀬のことだ、夜にはシルクの黒いパジャマでも着て眠るに違いない。かなりハマっていて、愛美は笑ってしまう。愛美の様子は、まるで綾瀬の言葉に対して笑ったかのように見えたらしい。巴がいい度胸だとでも言うように、肩を竦めた。

 そして巴は、自分が入って来た当初から落ち着かなげな様子をしていたクラディスに近付くと、絨毯に膝をついてクラディスの首に腕を回した。

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