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なろうだけよ-短編

メロンパン

作者: ササデササ

 彼には恋愛感情は無い。

 私の場合、コンビニ店員をしていて記憶に残る客と言うのは総じてイケメンだ。幸せ遺伝子が強いのか、嫌な思い出よりも楽しい思い出のほうが残りやすい性質なのだ。

 彼はイケメンじゃなかった。

 それでも、彼は記憶に残る客だった。

 

 最初に彼の存在に気がついたのは、一年前だった。

 メロンパンはレジから見て手前のパンコーナーにある。

 でも彼は雑誌コーナーから酒コーナーや飲み物コーナーを通り、パンコーナーに行く。レジを避けるように遠回りする。

 レジの時も決して目を合わせない。

 彼は財布を持っていない。ポケットから丁度一〇六円を取り出す。多分そのポケットには一〇六円しか入ってない。

 会計の時も私の手を無視するかのように、カウンターに小銭を置く。

 その失礼な態度が印象に残る客だった。

 

 しかしそれだけでは直ぐに忘れてしまっただろう。

 彼は毎日来るのだ。

 同じ時間、メロンパンだけを買いに来る。

 手の上に小銭を置いて欲しくて、彼がポケットに手を入れているときから仰々しく「こちらにお会計をどうぞ」と手を差し出したこともあった。

 でもカウンターに置く。


 ある日、午前中でメロンパン売り切れになったことがあった。

 お昼過ぎ、彼はきた。

 戸惑っていた。

 私はつい声をかけてします。

「メロンパン好きなんですか?」

 彼は「はい」とだけ答えて、立ち去ろうとした。

 私は引き止めた。

 彼から話を聞いてみたかったのだ。

 何故メロンパンに執着するのかを。

 このコンビニのメロンパンは何処が優れているのかを。

 でも彼から返ってきた答えは、「コスパ」とか「ご飯でも甘いものが食べたい」だのくだらないものだった。

 そのまま私たちは少し話をした。

 彼は特別な人ではなかった。

 ちょっと内気な、店の近くの大学に通う、ただの大学生だった事が判明した。

 

 その日以来彼は来ない。

 もう、三ヶ月が経った。

 私は休憩室で店長からもらった賞味期限切れのメロンパンを食べてみる。

 メロンの味はしなかった。

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