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序章<わめく男>
緑の月が、海に浮かぶ夜。
分厚い参考書と書きこまれたノートが宙を舞った。
「クソッ!クソッ!何が現実だ!!」
血涙を流しながら、男は叫び続けた。心にぽっかりと空いた穴を誤魔化すために。自分の今までの人生を否定したくないがゆえに。
目の前が曇って見えなくなっても、声も掠れてでない。男は参考書を乱雑につかみ、泣き叫びながら叩きつける。表紙が千切れる音がした。
「何が、『俺の夢』だ!俺の憧れは何なんだったんだ!畜生ッ畜生ッ!!」
急に力が抜けて、男は紙が散乱した床に倒れ伏した。自分の今までの人生は、全く無意味なものだった。その現実に押しつぶされて、ただ、天井を見上げていた。
「『翻訳士』なんざ……クソくらえ」
心に空いた穴が、虚しさと悔しさの涙であふれた。