ユウタ君の作ったカップ焼きそば
僕がまだ子供の頃に僕の母の友人の息子と引き合わされたことがある。僕よりひとつ歳が上でユウタ君という。当時、僕はまだ小学生で分からなかったのだが、彼は生来の知的障碍者だった。言動の一挙手一投足にどこか不自然な、それを見ているものに違和感を抱かせるものがあった。
その違和感について最も印象に残っているのは、カップ焼きそばだ。
ご存知、カップ焼きそばを作るときは、まず蓋を少し開けて中のソースや薬味の入った袋を取り出す。そしてお湯を入れてしばらく待ち、それから湯を廃棄して蓋を外し、取り出しておいたソース、薬味を振り掛ければ出来上がり。
……なのだが、ユウタ君はまず蓋を少し開け、ソース袋も薬味袋も入ったままお湯を入れてしまった。彼の母親がそれに気がついて、ユウタ君の後頭部を平手でひっぱたいた。彼の母親は僕の母と同様に所謂「元ヤン」だった。
最後に会ったとき、ユウタ君は某郵便会社に障碍者枠で入社して勤務していた。給料は人間の最低限の尊厳を維持できるのかどうか疑問に思われる額だった。それでも彼はニコニコしていた。そういえば彼はいつもニコニコと笑っていた。たぶん、他にどんな顔をすればいいのか分からなくなってしまったのだと思う。虐げられた人間の顔。
最後にどんな会話を交わしたのかは失念してしまった。




