第7話 蒼の少女
思わぬ事態からセルビアンの屋敷に潜入(突入?)してしまった俺は現在、思わぬ難敵?と対峙している。その容姿から、おそらくはセルビアン直系の人物なのだろうが、なぜかこうして対峙する破目になっている。
その対峙している少女はと言うと、新たな氷の槍を生み出して、・・・って、
「ちょ、ちょっと待って!俺は怪しい者じゃないんだ!?」
「・・・貴方ですね、この屋敷に入り込んだという侵入者は」
俺の慌てた弁解に、しかし展開した氷の槍はそのまま、俺に鋭い視線を向けてくる少女。どうしたものかと俺が考えていると、少女の目線が俺の胸元、掛けられたペンダントに向けられる。
「そのペンダントは・・・」
少女はペンダントを見て少し驚いたような表情を浮かべる。これ幸いと少女に話しかける。
「このペンダントは俺の母さんからもらったものなんだ。母さんの名前はロレーン。このセルビアン家の長女だって聞いてる!」
話せるうちに話そうと半ばまくし立てるように喋る。ここでダメならいよいよ別の方法を考えなくてはならない。俺の話を聞いた少女は今度こそ驚愕したようだ。
「まさか、でも確かに彼からは・・・気配・。それ・・・瞳・・・」
少女はしばらく何事か考えていたようだが、唐突に頭を上げる。そして展開していたアイススピアを解く。
「・・・妙な真似はしないでください」
そう言ってこちらに歩いてくる。俺は抵抗する意思がないと示すために両手を挙げている。降参や危害を加えないと示すための行動らしいことは聞いていたのでとりあえずしておく。俺の目の前まで来た少女は胸にかけられたペンダントに目を向けている。それにしても近くで見ると可愛い子だなと思う。背は俺の胸辺りまでしかないが、これはまだこの子が幼いためだろう。見た目15歳くらいか?キレイな蒼い瞳に伸ばした蒼い髪の毛が風にゆらゆらとなびきながら日の光を反射してきらめいている。そんな姿にしばらく目を奪われていると唐突に少女がこちらに視線を合わせてきた。
「このペンダント、少しお借りしてもよろしいですか?」
「っへ!?あ、ああ、うん。はい、どうぞ」
見とれていた時に唐突に声を掛けられたためおかしな声を上げてしまったが少女は特に気にした風もなく俺からペンダントを受け取る。一体何をするつもりなのかなと見守っていると、少女はペンダントを持った手に魔力を集中させているのがわかった。
一体何を?と思ったのも僅か、少女の手にしていたペンダント、それに刻まれていたセルビアン家の紋章の花弁が輝きだした。それは、それぞれの花弁が魔法属性の象徴の色に輝いている。
「やはり本物・・・」
少女の呟きが聞こえた。俺はこのペンダントにこのような仕掛けがあることを知らなかった。
母さん・・・教えておいてよ・・・。
心の中で母さんに愚痴る。いや、知っていたからと言って何かが変わったかと言われれば、それはそれで首を傾げざるを得ないが・・・。
そんなことを考えているうちに少女がこちらを見つめているのに気が付く。
「・・・あなたが」
一体どうしたのだろうか?思わず声を掛けようとした時。
「いたぞ!侵入者だ!」
あっ!この少女とのやり取りで回りに気を配っておくのをすっかり忘れていた。瞬く間に兵士たちが集まってくる。
「なっ!?ユリアお嬢様!お離れください!ソイツはこの屋敷に侵入した賊です!」
視線を向けると門の前でやりあった中年の兵士の姿。どうやら彼の中で俺は不審者、盗人と来て、現在は賊らしい。忙しいな~、と暢気なことを考えている場合じゃない。既に屋敷の壁越しに多くの兵士に囲まれている。ちなみに少女、どうやらユリアというらしい彼女は俺の後ろ、ちょうど兵士たちからは俺の背にいる形だ。その様子を見た兵士たちは更に色めきだつ。
「貴様!ユリアお嬢様を人質に!?この外道めっ!!」
何だろう。どんどんあちらの兵士さんたちの中で俺が極悪人になっていく。周りを囲まれた状況で、本来ならば焦る状況なのだろうが、あまりの展開の移り変わりと扱いに思わずいやになってしまう。
とは言え状況が状況だ。今も槍や剣を構えた兵士たちがじりじりと距離を詰めてきている。ここまで来るとしょうがない。セルビアン家訪問はあきらめて、ここを強行突破。この町から離れるしかないかなと考えていた時、後ろからため息が聞こえた。そちらを向くとユリアさん?が俺の前に歩み出てきた。
「警備長」
「ユリアお嬢様!しばしお待ちください!即、その賊を討ち取りお助けいたします!」
ユリアさんが中年の兵士に呼びかける。どうやら結構偉い人だったようだ。
「こちらの方は・・・」
「見事賊めを討ち取ります!」
「いえ、そうではなk」
「お前たち、必ずユリアお嬢様をお救いするのだっ!」
『はっ!!』
「・・・・・・・」
なんだか話がかみ合っていないよに見えるんだけど。ユリアさんが兵士に呼びかけるがそっちのけで兵士さんたちはヒートアップ。
何だろうユリアさんから思わず引きたくなるようなオーラが・・・。
「皆のもの!かか_____」
「黙りなさいっ!!」
『っ!?』
うおっ!?びっくりした!
いきなりユリアさんが一喝。その小さな体から放たれたとは思えないような声と気迫が辺り一帯に響き渡る。それによりこちらに突撃しようとしていた兵士たちが思わずと言った風に固まる。警備長と呼ばれた中年兵士さんも思わぬ事態に目が点になっている。
そんな様子を見回したユリアさんはため息をはく。
「・・・ふぅ、警備長。この方はセルビアン家のお客人です。これ以上の無礼は私が許しません」
ユリアさんの言葉に俺も含めその場にいた全員が驚愕する。警備長などは顎が外れんばかりにあんぐりと口をあけている。が、立ち直りも早くすぐさまユリアさんに言い募る。
「で、ですがこの者はっ!」
「くどいですよ、この方は私が責任を持ってご案内するので貴方たちは仕事に戻りなさい!」
「は、はっ!わかりました!・・・おいっ、お前たち!持ち場に戻るぞ!」
ユリアさんの強い言葉に流石にこれ以上警備長が言い募ることはなく、他の兵士を引き連れて持ち場に戻っていった。それをユリアさんと一緒に見送る。俺自身急な展開に今だ思考が追いついていない。何せ賊から一転、客人になったのだから。
「・・・これでようやく落ち着いて話が出来ますね」
横にいたユリアさんからそう声を掛けられ、改めて向き直る。
「そういえばまだ自己紹介もしていませんでしたね」
そう言ってくすりと小さく笑う。
「私はユリア・セルビアン。セルビアン子爵の次男、オーギュスト・セルビアンの娘です」
そう言ってドレスの端をつまみ、優雅にお辞儀される。初めてされる対応に慌ててこちらも頭を下げる。
「こ、これはご丁寧にどうも。俺はリオス。母さんの名はロレーン・セルビアンで、このセルビアン家の長女だと聞いている。だから俺の名前もリオス・セルビアンになるのかな?」
そうしてお互いに自己紹介する。やはり想像通り、彼女はセルビアン家の直系らしい。一時はどうなることかと思い、諦めかけたがどうやらうまくいったらしい。いやー、良かった良かった!
「そうですね。それが事実なら私のお兄さまということになります。とにかくこの屋敷を訪れたと言うことは何かしら御用がお有りなんでしょう?これから御祖父様の所へご案内します。付いて来て下さい」
そう言って屋敷へと歩いていくユリアさん。彼女から言われたことで初めて、彼女が自分の妹に当たる存在だと言うことに気付く。厳密には従妹なのだが俺にとっては大した差は感じない。
突然出来た妹の存在にびっくりしながらも後についていく。妹ならさん付けはおかしいかな?と、なんともどうでもいいようなことを考えながらついて行くのだった。
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