第6話 突入?セルビアン邸
ユベルト山を旅立ち早3日。俺はようやくここ、セルビアン家に到着した。とは言えまだ中には入れていないので少し表現はおかしいかもしれないが。とにかく訪ねようと思った俺は屋敷の入り口、鉄格子の扉の前まできた。扉の左右にはおそらく見張り兼門番らしき鉄製の鎧を身に纏い、同じく鉄製だろう槍を構えた兵士が2人いた。近づいてきた俺に鋭い視線を向け即座に前に立ちはだかった。
「貴様、何用だ?ここはセルビアン領、領主セルビアン子爵の屋敷。貴様のような小僧が来るところではない!」
兵士の一人、中年代だろう厳つい顔に髭を生やした兵士が威圧するように言い放つ。おそらくはこれが仕事なのだろうが、もう少しこう、何とかならないものなのかな?っと思ったが、一先ず置いておく。
首にかけていた、母さんからもらったペンダントを兵士に見せる。訝しみながらも俺が差し出したペンダントを覗き込み、数瞬の後、その目が見開かれる。
「なっ!?これはセルビアン家の紋章!?」
差し出したペンダントに刻まれている、9属性の魔法を現す9枚の花弁の刻印、紛れもないセルビアン家の紋章に2人の兵士はしばし固まる。
「俺の名前はリオス。実は____」
「き、貴様ーーーっ!?」
俺の事情を説明しようとした直後、突然我に帰ったらしい兵士の一人がこちらに手にしていた槍を構える。えっ!一体どうしたんだ?
「それは紛れもないセルビアン家の紋章が刻まれたペンダント!貴様一体それをどこで手に入れたっ!」
そう言いながら槍を繰り出してきた!危ない!ちょっと、どこで手に入れたと言いつつ、この人俺を殺しに来ていないか?そんなことを思っている間にもう一人の若い兵士も我に帰ったようで、同じく襲い掛かってくる。
「ちょ、ちょっと待って下さい!このペンダントは盗んだものじゃなくて・・・」
「黙れ!盗人風情がおめおめと姿を現しよって、ここで討ち取ってくれるわ!」
何とか説得しようと試みるがもう完全にこちらの話に耳を貸してはくれない。流石にこんな事態になるとは考えていなかったため俺も少し焦る。幸い二人の兵士から繰り出される槍による攻撃は対して脅威ではない。剣を抜くまでもなくかわして対処できる。とは言えこのままではどうにもならない。
一度引いて、時間を空けてからまた訪ねるか?いや、それでもこの繰り返しになるような気がする。たとえこの兵士が交代したとしても、俺という不審者?がいたことは報告するだろうから同じこと。時間を置いても意味はない。ならどうすれば・・・。
兵士の攻撃を避けながらしばし考えていたが、若い方の兵士が一旦後方に下がったかと思うと首にかけていた小さな笛、確か警笛だったかな?を吹き鳴らした。すると周りの塀周辺で警備していたであろう兵士たちが集まってくるのが見えた。
見えただけだ8人ほど。剣を抜けば十分対処可能な範囲だろうが、流石に怪我をさせるわけにもいかない。いよいよ追い詰められてきたなと感じた俺はふとあることを思いついた。
待てよ?この兵士はそもそもセルビアン家の人間、母さんが外に出ていることを知っているのか?確か母さんからは周囲からのさまざまな問題を回避するために父さん、黒龍と結ばれたことはごく一部にしか知られていないと言っていた。ならば今ここで俺がどんなに説明しても信じる以前の問題なんじゃ?
だがそれならばそれを知っている人物、おそらくはセルビアン子爵を含めた家の人間ならばどうか?
俺はすばやく鉄格子越しに屋敷内を観察する。どうやら中から兵士が出てくると言ったことには、まだなっていないようだ。それを確認するや否や即、考えを実行に移す!
兵士から繰り出された槍による一撃を跳躍して回避。そのまま槍を繰り出してきた兵士の頭を一踏み。下からなにやらおかしな呻き声が聞こえたがとりあえず今は無視。そのまま兵士の頭をワンクッションにして更に跳躍!そのまま俺の身長の三倍近くはあるであろう鉄格子の扉を飛び越える!
後ろから駆けつけてきた兵士の驚きや怒号やらが聞こえてきたが振り返ることなく屋敷を目指して駆け出す。
とにかく、何とかセルビアン直系の人物に会う事が出来れば何とかできるかも知れない。かなり無理のある考えだったが、いたって真面目な俺はそのまま屋敷内に侵入しようとする。っが。
「侵入者だ!捕らえろっ!」
屋敷内からぞろぞろと兵士が出てきた!更には屋敷内の庭で警備に当たっていたであろう兵士まで集まりだした。これは不味いと急遽方向転換。屋敷と庭に生い茂っている木々の陰になるように逃走。迫っていた兵士たちの視界から外れた瞬間、傍らにあった木に跳躍!気配を消して隠れる。
その下を先ほどの兵士たちが通過していく。どうやらうまく撒けたようだ。
隠れながら一つため息をつく。今更ながら考えが甘かったかと反省。すぐさま頭を切り替え周囲の気配を探る。どうやらかなりの数の兵士たちが探し回っているようだ。今のとこらはここから動かないほうがよさそうだ。そう結論づけてから改めて周囲を見渡す。現在は屋敷の裏手近くのちょっとした林にいる。 それにしても広い。土地だけでも俺の生まれ育ったカルデラと同じくらいの広さがある。一つの家が建つ土地としてはかなり広いのではないだろうか?最もそういった基準がわからないので明言できないが。 さらにこの庭、木々だけでなくなぜか小川まで流れている。周囲は塀で仕切られているはずだがどういった仕組みなのだろう?と首をかしげる。
なんにせよこれからどうしようかと考えているとこちらに向ってくる気配を感じて身を潜める。兵士に見つかったかと思ったがどうやら違うようだ。視界に写ったその姿を見て驚いた。
それは一人の小柄な少女だった。俺が驚いたのはその少女の容姿。具体的にはその瞳と髪の色だ。その二つの瞳、腰まで伸ばされた髪、その両方が鮮やかな蒼。それは母さんの姿を思い浮かべさせるものだった。顔立ちこそ母さんのそれとは違った。母さんはほんわかした顔立ちだが、視線の先の少女は落ち着いた性格が現れているような顔立ちをしていた。
おそらくこの少女はセルビアン家の人間だろう。母さんからセルビアンの者はその蒼い瞳と髪が特徴だと言っていた。現に俺もその特徴の一部を受け継いでいる。左目がそうだ。
そんな風に考えているうちにその少女は屋敷の裏手に備えられたベンチに腰掛け、手にしていた本を読み出した。改めて少女を観察してみると淡い青のドレスを着ている。確か同じような服を母さんが着ているのを見たことがある。いよいよ彼女がセルビアンの者であると確信してきた。
それにしてもこの子、度胸があるなと思う。周りの騒動には気付いているはずなのに、こんな場所で堂々と本を呼んでいるんだから。
そんな風に考えていたのが原因か。はたまた始めて会った両親以外の身内かもしれない人物の登場に動揺してしまったのか。気配隠匿に若干の乱れが起こってしまった。だが僅かだったため問題はないだろう。
そう思ったのだが・・・。
「・・・っ。そこにいるのは誰ですか!?」
いきなりベンチに腰掛けていた少女がこちらに視線を向けそう叫んだ。
気付かれたっ!?
流石にこれには心底驚いた。確かに気配隠匿に少なからず乱れはあったが、その僅かな乱れで感ずかれるとは思わなかったのだ。だが俺の驚きはそこでは終わらなかった。本を置き立ち上がった少女はこちらに向けて手をかざした。すると少女の周りに氷で出来た槍が5つ瞬時に現れる。
その光景に驚愕しながらも即座に動く。っと、同時に少女が氷の槍を放つ。木から飛び降りた直後、先ほどまで俺のいた枝周辺に氷の槍が突き刺さる。いまのは氷系の魔法、アイススピアだ。初級の下位魔法ではあるが、彼女の放ったそれは下位魔法と侮れるものではなかった。何よりその展開スピード。魔力を氷の槍に変えてから放つまでのスピードがなかなかのものだった。見れば少女のかざしている手の中指には俺のものと同じような指輪がはめられていた。おそらくは魔法発動体だろう。
こうして思わぬ難敵?に発見されてしまったのだった。
感想などお待ちしています