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黒龍の御子  作者: taka
第一章 御子の旅立ち
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第5話 セルビアン家までの道程

 騒動の起きているであろう方角へ急いで向う。やがて木々が途切れ、道に出る。ちょうどその時、前方に馬車が見えた。更にその周りには数人の人影。よくみると争っているようだ。だが、良く観察してみると片方が馬車を守るように立ち回り、もう片方はそれに襲い掛かっている。


 もしかして盗賊?いや、この場合は山賊と言ったほうがいいのか?

 そんなことを考えているうちに馬車を守っている方が追い詰められていく。そもそも人数に差がある。馬車を守っているのが3人で、襲い掛かっている山賊と思われる方は7人。このままだと押し切られてしまう。


 そう思いポーチの中から父さんにもらった剣を一振り取り出し駆ける。そのままこちらに気付いていない山賊2人の背後から斬りつける。

 違わずその二人は切り裂かれ即座に絶命。突然の乱入者にその場にいた双方が驚き動きが止まる。その隙に更に2人に向かう。向ってくる俺にようやく敵だと認識したのだろう。手にしていた剣で切りかかろうとするが振り上げたときには既に距離を詰め一閃、その二人とも一太刀で胴を両断する。

 人を相手取り、更に殺すのは今回が初めてだが、思ったより動揺はしていない。初めて命を刈り取ってから今までの実戦訓練のお陰だろうか?

 とにかく、残り3人の方へ向き直るが、


 「や、やべぇぞこいつ!お前等、ずらかるぞ!」

 

 山賊のリーダーらしき男が残り2人に呼びかけ逃げていく。逃げるのならこちらに無理して追う理由はないのでそのまま行かせる。完全に気配が遠ざかったのを確認して、一つため息をついてから剣を鞘にしまう。が、なぜか剣から手が離れない。意識して離そうとしたがこれもダメだったので仕方なく左手で無理やり剥がす。

 動揺していないと思っていたけど、そうでもなかったらしい。俺もまだまだだなと改めて思い、後ろを振り返る。視線の先、先ほどまで山賊に襲われていた3人は今だポカンとこちらを見ている。それぞれ剣を持っていて、所々怪我を負ってはいるが命に別状はなさそうだ。


 「大丈夫ですか?見た所深刻な怪我はされてないみたいですが」


 そう問いかけるとようやく我に返ったらしい、割と体格のがっしりした男性が剣を鞘に納めてこちらに駆け寄ってきた。


 「いや、助けていただいてありがとうございます!突然盗賊が襲ってきたときには人数が多く、もうだめかと思いましたが、貴方のお陰で助かりました。本当にありがとうございます!」


 そう言ってこちらに深々と頭を下げてくる。山賊じゃなくて盗賊だったんだなどと暢気に思っていると、頭を下げていた人が改めて話しかけてきた。


 「私はミカロスで商人をしているハンスと言う者です。このたびは本当に助かりました。よろしければお名前を伺いたいのですが」


 そう言ってくる商人のハンスさん。ただ、俺は最初の単語が何より気になった。


 「いえ、無事で何よりです。俺はリオスといいます」


 そう言って右手を差し出す。ハンスさんも同じように手を差し出し握手する。手を握ってわかったがこの人は剣を振りなれていないようだ。手の感触でわかる。思い出してみると先ほどの戦闘でも後ろの二人を含め、どこかぎこちない動きだったのを思い出す。


 「ハンスさん、つかぬことお聞きしますが先ほどの戦闘、どこかぎこちないように見えたんですが」


 そう聞いてみるとハンスさんは少し恥ずかしそうに頬を掻きながら説明してくれた。

 何でも急な商談の話が入り、急遽拠点にしていたミカロスの町に戻ることになったらしい。だが、何分急だったため護衛も雇う暇なく、結果盗賊に襲われる破目になったとのことだ。


 「いや、お恥ずかしい限りです。普段は必ず護衛を雇うのですが。先ほどリオス様が言われたとおり、私どもは全員商人です。剣ももしもの時のための護身用でして、まともに戦うことはできないのです」


 なるほど、納得した。とは言え危険があるなら今度から護衛はきちんと雇うべきだなと思う。


 「ですからリオス様が助けてくださらなければ私どもは今頃死んでいたでしょう。是非とも何かお礼をさせてはくださりませんか?」


 そう申し出てくれたハンスさんにこれ幸いと話を切り出す。


 「でしたら俺をミカロスまでこの馬車に乗せては貰えませんか?」


 先ほどハンスさんがミカロスの名前を出したときには驚いた。そこはまさに俺が目指している場所、セルビアン家のある町だ。ほとんど目的地と言っていい。正直びっくりだ。


 「それは構いませんが、そのようなことでよろしいのですか?」


 俺の言い出したことに少々困惑したのだろう。ハンスさんは思わず聞き返してきたが俺にとっては大助かりだ。

 そんな訳でハンスさんの馬車に乗せて貰うこととなった。ここからだとミカロスの町には明日の朝には着くらしい。

 馬車に乗っている間、ハンスさんから色々な話を聞いた。何でもハンスさんはこのノスティーア王国で最も大きい商会、アーヘンバッハ商会のセルビアン領支部の支部長さんらしい。最初はよく分からなかった俺にハンスさんは親切丁寧に教えてくれた。結果、要するにセルビアン領では一番偉い商人さんだと納得。ちょっと違うんですけどねと困った風にハンスさんが呟いていたが、とりあえずハンスさんは悪い人ではないだろうということがわかっただけでも良かった。

 父さんから相手の目を見ればある程度それがどういった人物かわかると言われていたのでハンスさんの目を観察していた。まあ、俺はこうして両親以外の人と接するのが初めてだったのでそこまで高度なことはできないが、少なくとも悪い人ではないことはわかった。命の恩人だと言うことも当然あるだろうが、俺に色々と話を聞かせてくれたり、説明してくれる所から面倒見のいい人なんだろうとも思う。


 ハンスさんと色々と話などをしている内にあっという間に一日が過ぎた。俺自身、初めて両親以外の人と話すことに興奮していたらしい。ぶっとうし話してしまった。俺は特になんともなかったが、ヒゥースト族であるハンスさんは疲れてしまったようだ。悪いことをしてしまったと反省。これからは気をつけよう。そういえばハンスさんが俺のことを様付けで呼ぶのに対し、そんなことしなくていいですよと言ったが受け入れられなかった。俺が命の恩人であることももちろんだが商売柄、様、或いは殿と呼ぶのは癖のようなものらしい。


 「リオス様、着きましたよ」


 ハンスさんにそう声を掛けられて馬車の外に降りる。広がっていたのは町。沢山の家々が立ち並び、食べ物などを表に並べている店なども見受けられた。そして何より沢山の人々が行きかっていた。


 ここがミカロス。セルビアン領では一番大きな町であり、セルビアン子爵のお膝元。つまりはセルビアン領の中心地だ。


 またも初めての光景に思わず散策したくなるのを抑える。

 ・・・あとで絶対来よう。


 「ハンスさん、わざわざありがとうございました。お陰で助かりました」


 「いえいえ、助かったのは私どもの方です。ここはちょうどミカロスの中央に位置する大通りの入り口です。この大道りのちょうど中間辺りに私どもの支部があります。何かありましたら是非いらしてください。お待ちしていますよ」


 そう言ってにこやかに笑いかけられた。うーん、ハンスさん割とがっしりした体格だけど、こうして笑うと妙に愛嬌があるんだよね。商売柄?

 そんなことを思いながらハンスさんと別れて俺は大道りを歩いていく。途中色々な店などがあり、正直かなり後ろ髪を引かれたが、何とか我慢して歩を進める。

 後でこれる、後でこれる、後でこれると繰り返し念じながら・・・。


 そしてとうとう大通りの先に行き着く。目の前には柵で仕切られた大きな屋敷がそびえ立っていた。と言うか、


 「でかっ」


 思わず声に出してしまう。

 周りの家々と比べても明らかに大きい。

 とにかく俺は目的地にたどり着いた。目の前にあるこの屋敷こそ母さんの実家であり、この地方を治めている貴族の住まう場所。何より両親のほかで家族と呼べる人たちの住まう家。



 「ここが、セルビアンの屋敷」



 ユベルト山を旅立ち3日。俺はセルビアン家へとたどり着いたのだった。






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