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黒龍の御子  作者: taka
第一章 御子の旅立ち
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第3話 旅立ち

連続投稿その3です

次は0時に

 「ちゃんと着替えは持った?忘れ物はない?」


 現在家の前で母さんが俺の周りをうろうろしている。先ほどから同じ事を繰り返し言ってくる。


 「地図は持っている?アレが無いとセルビアン家までいけないからね。ああ、そうだった。セルビアン家の紋章の付いたペンダントちゃんと持った?それがないとセルビアン家には入れないでしょうから」


 「大丈夫だよ、母さん。だいたい昨日の夜も一通り確認したじゃないか。・・・それも何度も」


 この調子である。心配してくれるのは素直に嬉しいのだが、旅立つ俺よりも慌てているのはどうかと。



 初めてゴブリンを手にかけた日からまた時間は流れ、ついに今日、俺はこのカルデラから旅立つ日を迎えた。・・・・・のだが。


 「あぁぁ~、心配だわ。やっぱり今日は延期にしない?」


 そう言って可愛らしく小首をかしげる。いや、母さん。息子にその態度はどうかと。

 思わずため息をつく俺を見て延期は無理だと悟ったのだろう。しばらくう~ん、と唸っている。なんというか母さん子供っぽいよな?いや、比べる相手がほとんどいないから明言できないけど。しばらく唸っていた母さんが唐突に顔を上げた。


 「・・・やっぱり私も付いていくわ!」


 ・・・えぇ~、そんな握りこぶし作って言われても。そもそもそれでは意味がないのでは?


 「え~と、一応確認するけど、俺が二人から離れてもちゃんと生きていけるための巣立ちだよね?母さんが付いてきちゃ意味ないと思うんだけど・・・」


 「うぅ~、でも母さんリオスちゃんが心配で~」


 そう言って駄々をこねる母さん。いや心配で~って。これじゃあ一体どっちが独り立ちするのかわからないよ。と言うかちゃん付けやめて。こうなるといつも昔みたくリオスちゃんと呼んでくるから困る。

 どうすればいいのか困っていると、裏の物置小屋から父さんが出てきた。


 「はっはっはっ!やっぱり母さんに引き止められているな」


 こちらの様子に気付いた父さんが笑いながら傍らまで来る。いやこっちは本気で困ってるんですが?

非難をこめた視線を向けるが、いつものごとくカラカラ笑っているだけだ。


 「・・・さて、ほらロレーン。そろそろ諦めろ。リオスも困っているだろう」


 「うぅ~、だって~」


 ようやく父さんが母さんを説得してくれた。何だろう。行く前から疲れた。


 「さて、リオス。これからお前はこの生まれ育ったカルデラから、外の世界へと旅立つ。俺と母さんは今までお前に教えられる限りのことを学ばせ、そしてお前を鍛えた。今のお前は外の世界でも何の問題もないだろう」


 改めて俺に向き直った父さんの表情は滅多に見ないほどに真剣そのものだった。


 「お前にとってはまさに未知の世界だ。だがそれに気後れすることはない。お前は自分の思うがまま、感じるままに、自らの信じる道を進めばいい。」


 真剣に語りかけてくる父さん。その言葉をしっかりと胸に刻みつけるように一つ頷く。それを見た父さんは乱暴に頭をがしがしと撫でてきた。痛いけれどなぜだか逃れようとは思わなかった。

 そうしていると、ようやく再起動したらしい母さんが俺の前に来た。


 「リオス、どうか気を付けて。もし何かあったらすぐここに戻ってきたいいからね?ここは貴方の家なんだから」


 そう言って優しく頭を撫でてくる。その瞳は微かに濡れていた。


 「何かなくても、たまにはここに顔を出して頂戴。父さんも母さんも待ってるわ」


 ついに零れ落ちる涙を拭くこともせず、俺に語りかけてくる母さんにしっかりと頷き返す。それを見た母さんは涙を流しながらも嬉しそうに微笑んでくれた。そして俺の手をとり、左右それぞれの中指に指輪をはめてくれた。


 「これは母さんが結婚したときにお祝いの品として国王陛下から賜った魔法発動体の指輪。貴方の旅立ちにととって置いたものよ」


 魔法を行使する際、円滑に精霊から力を借りるための補佐装置として魔法発動体は使われる。なくても魔法は使えるが、魔法発動体があったほうがその効率も威力も高い。普通は杖などの魔法処理されたものであり、実際俺も訓練では杖を使っていた。


 「でもこの指輪かなり高価なものなんじゃ。というか国王って」


 魔法発動体はそれに組み込まれている術式の精度やこめられた魔力、その材質などで行使する魔法の威力を左右する。多くの魔法発動体を見たわけではないが、少なくとも自分が訓練で使っていた杖とは段違いのようだ。何より国王からもらったものというのが引っかかる。


 「ふふっ、そうね。確かに高価なものね。でもだからこそ、この今日という日のために取っておいたのよ。貴方の旅立ちへの、母さんからのプレゼント」


 そう言って笑いかけてくる。そう言われては最早何かいう事は出来ない。ありがとうとお礼を言って受け取ることにする。母さんとのやり取りが一段落着いたのを見た父さんが俺の前に来る。その手には大きな黒い袋を持っている。


 「俺からは餞別にこいつをやろう」


 そう言って袋から中身を取り出す。出てきたのは二振りの長剣。共に黒い鞘に収まったそれをそれぞれ引き抜き俺に見せる。


 「お前は並みの剣じゃ直ぐに折っちまうからな。こいつなら早々折れることはないだろう」


 そう言って見せられた長剣。その刀身は二振りとも漆黒。だが片方は向こう側が見えるほどに透き通っていて、もう一方は逆に光さえ反射することがない。


 「刀身が透き通っている方は魔法なんかの魔力をともなっているものを打ち消すことが出来る。もう片方は逆に魔法なんかを纏わせることが出来るようになってる」


 父さんからの説明を受けて流石に驚く。見るからに業物といった剣なのに、更にそんな能力付とは。


 「なんたって俺の角と牙から作った特別製だからな!」


 ・・・・・・・・・え?


 「え、ぇぇぇええええ!?こ、これ。父さんの角と牙から作られてんの!?」


 思わぬ暴露に驚く。そりゃ自分の手にあるのが父親の体の一部から切り取ったものだといわれたら驚く。が、そんな俺には構わず説明を続ける父さん。


 「いやな?母さんからお前への餞別について聞いてな。これは俺も何か用意しなきゃなと思って、何年か前から用意してたって訳だ」


 そう言ってからからと笑う。いやそういう問題じゃなくて・・・。


 「え~と。父さん?自分の角やら牙やら取って大丈夫なの?」


 「当たり前だ。黒龍の再生力をなめるな。即治ったぞ?」


 ・・・そうですか。まあ、なんともないならいいんだけどね?そう思い受け取る。

ホント旅立つ前から疲れた・・・。


 「さて、渡すものも渡したし、そろそろだな」


 「いい?リオス。まずはセルビアン家が最初の目的地。セルビアン家の紋章が描かれているペンダントと母さんが書いた手紙を持っていれば通してくれるわ」


 「うん、わかった」


 ひとまず俺の目的地は母さんの実家であるセルビアン家。流石に外の世界をまったく知らない俺がうろうろしてもどうにもならないので、まずはセルビアン家に行く事となった。そこでその先どうするかを自分で判断するということになっている。


 「・・・それじゃあ、そろそろ」


 そう言って俺は背中から漆黒の翼を出す。黒龍である父さんの血を引く俺はこうして体を龍に変化させることが出来る。これが人間、他種族からはヒゥースト族と呼ばれる種族の一番の特徴である。ヒゥースト族は他種族との間に子孫が出来るとある3パターンに分かれる。


 一つは交配した他種族の子供が生まれるパターン。これは魔物などに特に見られるらしい。


 二つ目は両種族の特徴をそれぞれ受け継いだ子供が生まれるパターン。これが一番多いらしく、この子孫がそのまま一つの種族として存在もしているらしい。


 そして三つ目のパターン。これが俺であり、もっとも確率の低いものである。姿はヒゥースト族なのだが自らの意思により交配した他種族に体の一部、ないし完全に変化することが出来るというものである。ただ制限なく変化できるわけではなく本人の体力や精神力に依存する。


 そんな訳で俺はこうして翼を出すことが出来るわけだ。黒龍に完全変化することも出来るが流石に精神的にも体力的にもきつい為、滅多なことで使うつもりはない。


 「・・・それじゃあ、いくよ」


 改めて両親に振り返る。おそらく次に会うのはしばらく先になるだろう。


 「ああ、気をつけてな」


 「体にはくれぐれも気をつけるのよ?」


 それぞれに頷き返す。うん。あっちの生活が落ち着いたら顔を出しに来よう。

 そう心に決める。


 「・・・それじゃ~、いってきます!」


 そう言って俺は勢いよく空へと飛翔する。

 今まで生活していたこのカルデラを一望する。

 大きくはないけれど、確かに家族3人で暮らしたこの空間。

 この場所にも心の中で別れを告げ・・・。


 俺は、旅立った。







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