第13話 小さな幸せ
フィリアside
「まっ、わかったわ。それじゃあ登録とかの手続きは_____」
今日一日だけで沢山の出来事を経て、今私は黒龍さま、リオスさまに連れられて冒険者ギルドという場所に来ています。なんでもここは色々な人が依頼というものを受けてお金を貰う場所らしいです。おじいさんから一度だけ聞いたことがありましたが、とっても強い人たちが居ると聞いています。来る途中、沢山の怖そうな人たちが居たのでやっぱり本当の事だったみたいです。
「あっ、それとちょっと頼みたい事があって_____」
本当は沢山人の居る場所に行くのはとっても怖かったですけど、今はリオスさまから離れるほうが怖かったのでがんばって付いて来ました。
それにこれからはきっともっと色々な場所に行って、色々な人と会うことになると思うから・・・。
「ねえ、フィリア。もし良かったら、_________俺と一緒に来ないかい?」
そう言って私に手を差し伸べてくれているリオスさまを私はびっくりした表情で見上げていました。
私のことを育ててくれたおじいさん、おばあさんは私のこと、ダークエルフのこと、ハーフダークエルフの事を包み隠さず教えてくれました。
ダークエルフはどの種族からも嫌われていて、そんなダークエルフすらハーフを嫌う。私はそんな存在。それでも、そんな私をおじいさんとおばあさんは優しく育ててくれました。そんな二人が私は大好きでした。
3人で暮らす人里はなれた場所での暮らし。おじいさん達から聞いた人が沢山集まる町、そんな外の世界に興味がなかったわけではないけれど、それ以上に私は怖かった。知らない沢山の人たちは私のことをどんな目で見てくるんだろう?やっぱり私は嫌われ者なの?そんな事を考えるととても外に行こうとは思えなかった。
だって今私は幸せだから。おじいさんとおばあさんと私、三人で暮らすこの家が好きだから。
ご飯を食べながらまだ若かったとき、冒険者として経験した色々な武勇譚を面白おかしく話してくれるおじいさんが好きだったから。
暖かい暖炉の前で、転んで怪我をした私を癒しの魔法で癒してくれ、凄い凄いとその魔法に心引かれた私に、丁寧にそれを教えてくれたおばあさんが好きだったから。
私は二人が大好きでした。
ずっとそんな日々が続くと、思っていました。
そんな私の幸せが唐突に終わりを迎えました。
おじいさんが病に倒れてしまいました。その時の私は知りませんでしたが、その時期に周囲の村や町などではやり病が出ていたらしく、おじいさんもその病にかかってしまったんです。
それからは瞬く間でした。
日に日にやつれていくおじいさんを私とおばあさんは一生懸命看病しましたが、やがておばあさんまでも病に倒れてしまい、私は必死に二人の看病をしました。けれど二人は日に日に弱っていくばかり。
「お前が気に病む必要はないんだよ。私たちは十分生きた。これも寿命だろう。」
「ごめんねフィリア。私たちは貴女の幸せを祈っているわ。」
そう言った二人は、その日の内に亡くなりました。
それからは来る日も来る日も私は泣き続けました。どうして二人は死んでしまったの?どうして私は二人を助けられなかったの?どうして私だけがここに居るの?
それでも、最後まで私のことを気にかけてくれた二人を裏切らない為にも、私は懸命に一人で生きていこうとしました。
幸い二人が残してくれた家や畑、加えておじいさんから習った弓での狩の仕方や、おばあさんから習った魔法などで生活自体には困りませんでした。
それでもやっぱり寂しかった。二人に会いたかった。毎夜毎夜二人を思い出しては泣く事を繰り返す日々。そんな私を唯一慰めてくれたのが精霊たち。言葉は交わすことは出来なくても彼等の心が、私を励まそうとしてくれるその優しさがせめてもの救いでした。
でもそんな日々すらも二人が病にかかった時のように唐突に終わりを迎えました。
偶然道に迷ってなのか、それとも旅をしている人だったのか。今となっては解りませんが、確かなことは唯一つ。私がおじいさん、おばあさん以外に見られたという事。同時に私にとっては初めて見る二人以外の人でした。
最初私は驚いてしまいまったく行動する事ができませんでしたが、それはあちらも同じだったようで。それでも何とか立ち直った私は勇気を振り絞り声を掛けようと一歩を踏み出した、その行動で我に返ったらしいその人は驚愕に幾分の恐怖を張り付かせ駆けて行きました。
初めて見た他人、その驚きと、そんな人が逃げていってしまった事への驚愕で結局その人を追う事ができず、ただただ残念な気持ちを抱く私はすっかり失念していました。
自分が、ハーフダークエルフが人々にどのような目で見られているのかを・・・。
次の日、なぜか慌しい精霊たちの気配でいつもより早く起きた私に、精霊たちが私に伝えてくれたのは、とても友好的ではない者たちの接近。
慌てて窓から外を覗うと、まだだいぶ距離はあるものの沢山の人たちがこちらに向ってくるのが見えた。その先頭にいるのは昨日であった人。その後ろには沢山の人たち、先頭を歩く人と同じような人から、全身が毛で覆われた人や体が岩で出来ている大きな巨人などさまざま。
けれどもそんな彼等には共通するものがありました。それは皆それぞれその手にさまざまな種類で、目に突き刺さるような嫌な光沢をさせる鋭利な______
「______ッ!?」
気付いた時にはずっと住み暮らしていた家を着の身着のまま飛び出していました。後ろからは悲鳴とも、怒号ともつかない声が響いてきますが、一度も振り返らず、ただただ必死に森の中をひた走りました。
どれだけ走ったのか、途中何度も転び、小さな傷を作りながらも無我夢中で走り続け、後ろから迫る声がなくなってもまだ走り続け、ようやく足を止めたのは少し開けた場所にでて、川に差し掛かったときでした。
それまではまったく感じていなかった喉の渇きが急速に上ってくるその感覚に逆らう事が出来ず、無我夢中で川の水を飲みました。ひとしきり水を飲んだ私は喉の渇きとともに襲ってきた疲労感に思わず倒れこんでいました。
しばらくの間、ぼんやりと空を見上げていましたが、唐突に涙が溢れてくるのを抑えることができませんでした。まるで今飲んだばかりの水がそのまま流れ出てくるようにとめどなく瞳から零れ落ちてきますが、それを拭う気力すら起こりませんでした。
どれくらい泣いていたんだろう。涙ももう出なくなった頃にようやく私はふらふらと立ち上がりました。これからどうすれば良いのかなんてわからない。そもそもこれからを考える事すらできない。
それでもこのままじゃいけないとまるで何かにすがるように歩き出そうとした、その時。
後ろから響いた音に振り返ってみたのは、
手にした剣の柄を振り上げている大きな男の人。
次の瞬間、私の意識は闇に落ちた________




