第12話 ダークエルフ
「あ、待ってたわよ~リオスくん。」
ギルドに着くとすぐさまキューリアさんに出迎えられ、と言うか捕まった。ってかなんでちょっと不機嫌なのキューリアさん?
「報告を受けてから結構時間が経ってるのにぜんぜんこないんだもの。お姉さん心配したのよ。」
いかにも「めっ!」といったようにこっちに指を向けてくるキューリアさんに思わず「すみません」と苦笑しながら謝る。そんな俺にまったくしょうがないんだからとでも言いたげに腰に手を当ててため息なんて吐いていらっしゃる。
「さて、それでリオ「あっ、ちょっと待ってください!」?」
キューリアさんの言葉をさえぎって俺は後ろ、またもマントを頭からすっぽり被っているフィリアに視線を向ける。ここで事情を説明するとおそらくちょっとした騒ぎになるだろから、出来れば場所を移したい。キューリアさんもそれでなんとなく察してくれたようで、
「_____うん、じゃあ場所を移しましょうか。」
そう言って俺たちを奥の部屋へと案内してくれた。それぞれ備え付けられたソファーに腰を降ろして向かい合う。
「さて、それじゃあ話を聞きましょうか。なんでも依頼でなにかあったみたいね?」
「・・・ええ、ちょっと問題が起きまして。」
そう言って俺はキューリアさんにフィリアのことを除いた今までの経緯を説明した。
一通り説明し終わってから一つ頷いたキューリアさんはギルドの一人を呼び出してから何事か軽く話を交わし、一旦呼ばれた人は部屋を出て行ったがすぐさま少し膨らんだ布袋を持ってきた。
「予想外の乱入者がいたみたいだけれど、結果的に依頼のハウンドウルフ討伐は完了したものとして、あと予想外の事態になったのはギルド側にも問題があるからその分の謝罪料も上乗せしておくわね。」
そう言ってキューリアさんが報酬を手渡してくれる。正直色々あって報酬云々はすっかり頭の中から抜け落ちていたけれど、今後の事を考えるとなんとも助かる。
報酬を受け取ってからさてとと言って改めてキューリアさんがこちら、というかマントを被ったフィリアに目を向ける。
「それでそっちの子はどうしたのかしら?察するにさっき話していた商人の生き残りの子かしら?」
そう言って問いかけてくるキューリアさんに俺たちは顔を見合わせ、俺が軽く頷くとフィリアも頷き返しおずおずとマントを取る。
露になる褐色の肌と少し灰色がかった髪、そして頭の両方から伸び出ている長い耳。流石に驚いたらしくキューリアさんも呆けた表情になったが、すぐさま「はっ」と立ち直ったらしく俺の方に視線を向けてくる。
「え~と、リオスくん?これはどういうことなのかな?」
若干引きつった表情のキューリアさんに思わず俺も苦笑してしまいながら、改めてフィリアのことも含めたいきさつを説明した。
また一通り説明し終わり、キューリアさんは軽くため息をついた。
「う~ん、大体の経緯はわかったわ。・・・・・・それにしても攫い商か。また治安が悪くなってきてるわね。商会と話し合う必要があるかしら?」
ぶつぶつと呟きながらなにかしら考えるそぶりを見せていたが直ぐさま気を取り直したように「でっ!」っと勢い良くこちらに身を乗り出してきた。驚いて思わず身を引いちゃったよ。
「でって、何ですか?」
「何もこうも、この子。どうするの?」
更に顔を近づけ声を落とし、隣のフィリアに軽く視線を向けながらそう聞いてくる。
「さっきの話でここに連れてきた事は解ったけれど、この後どうするつもり?どうにも行く当てもないみたいだし・・・。」
そう言ったキューリアさんの声には若干の気の毒さも含まれていて、こんな時になんだけれど、何だかんだで優しい人だということに安心した。
「それだったら当分の間は俺と一緒に行動する事になってます。ギルドの登録なんかも含めて。」
そうあっけらかんと言う俺の顔をなんといえない表情でしばらく見ていたが、やがてため息を吐いて元の位置に腰掛けた。
「・・・うん。まあ、リオスくんならそんな事になるんじゃないかとは思っていたけどね。・・・一応確認しておくけど、本気?」
「ええ、もちろんです。」
俺の答えを聞き、いかにも『私、頭痛いんです』といった風に眉間を押さえている。
「ギルド的には何か問題がありますか?」
「それはぜんぜんないわ。そもそも所属している冒険者や賞金稼ぎなんかは、それはもう多種族も多種族だから。・・・ただね~。」
そう言ってフィリアの方に視線を向ける。
「こういうことはあんまり言いたくはないけれど、風当たりは強いと思うわよ?やっぱりダークエルフは世間的に見てもあまり好かれている種族じゃないから。」
キューリアさんの言葉を受けてフィリアが俯いてしまう。が、構わずキューリアさんは話を進める。
「ハーフだっていう事は、エルフ族以外ではたいして気にする輩もいないとは思うけれど・・・。」
「・・・やっぱりダークエルフは他種族から敵視されているんですか?」
俺の言葉に「う~ん。」と唸るキューリアさん。
「大体の人は世間一般のダークエルフの認識で判断するから、どうしても警戒はするでしょうね。」
精霊と高い親和性を持ち、その気質から他種族との交流をほとんど行わず、独自の文化を営むエルフ族。閉鎖的な、そして特に争いを好まない性質から良く神聖視される。が、そのエルフ族でありながらまったく反対の性質であるのがダークエルフだ。
精霊と高い親和性を持つのは同じだが、好戦的であり、他種族の文化を取り入れた上で独自の文化を構築し、何に対しても質素な物を好むエルフとは違い、即物的であり欲の強い種族、というのが世間一般のダークエルフの印象だ。
・・・・・・まだ出会って一日も経ってないけれど、まったくフィリアと結びつかないんだけれど。
「まあ、ギルドでも所属しているダークエルフは居るらしいし、結局のところ本人のがんばり次第ではあるけれどね。」
そう言って暗くなりかけていた部屋の雰囲気を強引に取り払ってくれた。やはりキューリアさんは優しく、加えて面倒見も良い。色々と厳しい事を言うのも、結局のところ人の良さからくる心配なわけだ。
何より俺は既にフィリアを供にする事を決めている。
きちんとこれからの事をわかった上で、彼女は俺の手を取ってくれたのだから・・・。




