第2話 リオス・セルビアン
連続投稿その2です
次は18時に
俺、リオス・セルビアンは少々特殊な生まれ、特殊な生活を送っているそうだ。生まれてこの方このカルデラの中が俺の世界の全てだった。
特にそれに不満を感じたことはない。外の世界には当然興味はあるし、実際外に出ようとしたこともある。その時は父さんにぼこぼこにされたが・・・。
とにかく、生まれてからずっとこの場所しか知らない俺にとっては不満に感じる材料がないわけだ。父さんと母さんが言うには、
「お前は龍と人との間に生まれた子。何かしら利用、ないし害をなそうとするものがいないとも限らない」
と言うことらしい。
いまさらになるが俺の父は幻獣族と呼ばれる種族の中でももっとも強大だとされる龍、その中でも最強とされる黒龍だ。
そのため、その息子である俺は力を求める者や、よからぬ考えを持つ輩にとって恰好の獲物だそうだ。
それゆえ、俺がある程度成長するまでは外の世界に出ることは禁じられていると言うわけだ。
「まあ、修行も勉強も楽しいから別にいいんだけどね」
一冊の本を読みながら独り言を呟く。今は家の裏にある物置小屋で読書中。ここには母さんが実家から持ってきたというものから、父さんがどことも知れない場所から持ってきたよく分からないものまで色々と置かれている。まさに物置小屋だ。とは言え俺はココが嫌いじゃない。色々な知識が書かれた本や、何に使うかもわからないガラクタなどが出てきたりと、とにかく飽きないのだ。
「え~と、この訳は確か・・・」
今俺が読んでいるのは古代語で書かれた書物。これは父さんがどこぞの遺跡から持って来た物らしい。何で遺跡に書物?と最初は疑問に思ったが父さん曰く、
「遺跡にはとにかく何でもあるからな。適当に持って来たんだ」
とのことだ。父さん、ホント適当・・・。
とは言えそのおかげで色々と面白いものがあるのだから別にいいか。
ちなみに俺は現在この大陸の共通語の他に、いくつかの古代語もマスターしている。共通語は母さんから、古代語は意外なことに父さんから学んだ。何だかんだで頭が良いんだよね父さん。龍である父さんは長生きらしいので、確かに知識は豊富か。
ただ、他の種族の言語までは流石に学んでいない。この大陸にはさまざまな種族が存在し、父さん曰く
「共通語がわかれば大抵の者とは話が出来るし、精霊や古い種族でも古代語が理解できれば問題ない」
と言っていた。
現在ではほとんどの種族が共通語で話しているらしく、異種間同士でも問題ないらしい。
そんな風に俺は日々父さんに訓練して貰ったり、母さんに勉強やらこの大陸の常識などを学んでいる。
なぜか母さんからは料理や家事全般も叩き込まれている。
「男の子でもこれくらい出来なきゃダメよ?」
と言うのが母さん談。
まあ、母さんが必要だと言うのなら間違いではないのだろうと、色々と学んだ。実際やってみると、これがまた悪くなく、特に料理は面白い。今では自分で色々と工夫して作れるようにまでなった。
一度母さんにどうして自分に家事を教えたのかと聞くと、
「昔は私、家事なんてぜんぜん出来なくてね、ココでの生活に最初とても苦労したのよ」
と、ため息を付きながらもどこか嬉しく、懐かしそうに語ってくれた。
元々母さんは貴族の長女で、黒龍である父さんと恋に落ち結婚。しかし黒龍である父さんに目を付ける者たちが現れる危険があることから家を出てこの場所に来たらしい。
俺の名、セルビアンはその貴族の家のものらしい。この大陸では貴族などの身分の高いものなどが苗字を名乗るらしく、普通はないらしい。
「ごめんなさいね、貴方にまでこの暮らしを強要してしまって」
いつだったか、母さんが俺に申し訳なさそうにそう言って謝った時があった。俺自身ココでの生活に何の不満もなかったので謝られても逆に困るのだが。
どちらにせよ俺がある程度の力を身につければ外にも出られるわけだし今はひたすらがんばるだけだ
そう思い、次の書物に手を掛ける。
それからいくらかの月日が流れたある日、父さんから今日ある試験をすると言われた俺はいつも訓練する中央の広場に来た。が、すぐさま異変に気付く。
居る、家族以外の何かが。
視線を巡らせると直ぐに捕らえることが出来た。それは全身が汚れた緑色で覆われており、手には棍棒を持ってこちらを睨みつけている。
「ゴブリン・・・」
母さんの本で見たことがあるその姿。初めて生で見るがその姿に思わず顔を顰める。知識として知っていたとしてもこうして対峙するとまた違って見える。書物でゴブリンは他種族の雌を攫い、犯して自らの子孫を残すと言う知識のせいもあるだろう。嫌悪感を抱く。
しかしなぜここにゴブリンが?
そんな疑問を浮かべていると視線の先にいたゴブリンが叫びながらこちらに襲い掛かってきた。手にした棍棒を振り上げてこちらに迫ってくるが、父さんの訓練に比べれば止まっているも同然なその動きに焦ることなく対処する。
父さんと母さん以外でこうして戦闘するのは初めてだがそこまで慌ててはいない。ゴブリンからは当然殺気を向けられているが、父さんの桁外れな殺気に比べればどこ吹く風だ。
そうしてまた殴りかかってくるゴブリンをかわす。
が、そこである致命的な疑問を抱いた。
俺はこのゴブリンをどうすればいいんだ?
襲い掛かってくる、いや、このゴブリンは俺を殺そうとしている。それを俺はどうすればいいんだ?腰には訓練用の長剣がある。これであのゴブリンを斬る?
俺があのゴブリンを殺す?
殺す?
俺が・・・。
行き当たったその思考で完全に足を止めてしまった。それをゴブリンが見逃すはずもなく、棍棒で殴られ思わずよろめく。大事には至っていないがそれでも頭は回らない。目の前に棍棒を振り上げるゴブリンの姿がやけにゆっくりと目に映る。
またゴブリンが殴りかかってくる。
なぜ?
俺を殺すため。
殺される?
俺が・・・・・コロサレル?
「・・・・・ぁぁぁぁああああああああ!?!?」
気付いたときには長剣を振りぬいていた。ボトリという音がして後ろを振り向くとそこには先ほどまでゴブリンだったものが胴体を両断されて転がっていた。
俺が殺した?
俺が・・・ころ・・した?
それを意識した途端、いきなり視界がぐにゃりと歪み思わず地面にうずくまる。直ぐに強烈な吐き気が襲い胃の中をひっくり返さんばかりに吐いた。吐いて吐いて、もはや何も出なくなってもまだ収まらない。
そんな時、背を撫でられる感触に何とか頭を上げると、そこには父さんと母さんの姿があった。それに思わず気が抜けたようで、意識が遠のく。
「今はゆっくり休め」
その言葉が僅かに聞こえ、意識を失った。
「・・・ここは」
目が覚めると見慣れた天井が目に移る。どうやらベッドに寝かされているようだ。
「起きた?」
横を向くと母さんが座っていた。
少し間を置いてから話を聞くと、どうやら丸一日眠っていたらしい。そしてあのゴブリンは父さんが外からつれて来たらしい。つまり父さんの言っていた試験とはあのゴブリンだったのだ。
・・・いや、それは正確じゃない。ゴブリンとの戦闘じゃ無い。自分の命を狙う輩、敵との戦い。そしてその相手の命を刈り取ることが出来るか。それが父さんが言っていた試験だった。
その後、父さんからいきなりで悪かったと謝られた。確かに突然だったが、必要なことだというのはわかっているので特に何も言わなかった。ただ謝りに来た父さんがなぜかボロボロだったのだけは少し気になった。
後日わかったことだが俺の様子を見て母さんが激怒。父さんに魔法をぶっ放しまくったらしい。父さんは母さんに手を上げることすらできないのでまさに一方的だったらしい。
それから翌朝には復活した俺はその日から母さんに魔法も教わるようになった。なぜ今まで魔法を教えてくれなかったのかと聞くと、実戦経験もないのに魔法まで習わすのは危険ということだ。
ここで少し魔法について話しておこう。魔法にはそれぞれ属性があり、
火、水、風、木、土、氷、雷、光、闇、
があり、さらにこれらに分類されない無属と呼ばれるものもある。
普通はこれらの中から無属を除いて2つ、多くて3つの適正があるらしい。のだが、母さんはこれら全ての適正を持っている。そのため、精霊に愛された者と呼ばれていたそうだ。これはセルビアンの血の特徴らしく、代々セルビアン家には母さんのような者が生まれるそうだ。
そして俺にもその血が流れているわけで、調べた結果、俺も全ての属性に適正があることがわかった。
それからは、今までの修行プラス、魔法の訓練が追加された。
さらに定期的に父さんが連れてきたゴブリンなどの魔物との戦闘もこなしていった。最初の頃はまだ抵抗があったがそれも徐々に緩和していった。
無闇に命を奪って良いわけはないが、相手が自分を殺しに来ているのに、俺は殺せません、なんていって殺されたんじゃ笑えない。
そういった風に日々修行に明け暮れ、月日は流れていった。
背も伸び、青年と呼んでいいくらいに成長した俺。
そしてとうとう、俺は旅立ちの日を迎えた。
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