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黒龍の御子  作者: taka
第二章 剣と狼
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第11話 差し伸べた手

 あんまりな事実にしばらく頭を抱えていたが、なんとか気を取り直してから、さらにフィリアに話を聞いていく。


 「オホンッ、それでどうしてフィリアはあの森でオークに襲われていたんだい?やっぱりあの商人たちと一緒だったの?」


 とりあえず二番目(・・・)に考えられる推論をフィリアに問いかけてみる。が、なぜかフィリアは俯いてしまう。この様子からあたって欲しくなかった一番目の推論の線が濃厚になってしまった。

 正直あまり口に出したくはないが、だからといって確認しないわけにはいかない。


 「・・・フィリアは・・さ、もしかして攫われてきたんじゃないのかな?」


 フィリアに出会ってからずっと気にはなっていたがあえて何も聞かなかった、首についている鉄の首輪。種族的な何かの装飾だと言うこともまったく考えられないわけではなかったのであえて黙っていたが、どうやら悪いほうであたっていたらしい。

 俺の言葉に益々フィリアは俯いてしまう。心なし肩が震えて見えるのでもしかしたら泣いているのかもしれない。その様子に自分の顔が苦々しく歪むのを感じながらも席を立ち、フィリアの前でしゃがみこみ彼女の両手を取る。

 それにまたもびくりと反応してこちらを覗うその目はやはり涙で濡れており、決壊寸前といったところだった。


 「・・・出来れば何があったのか話してくれないかな?もしかしたら、なにか力になれるかもしれない。」


 可能な限り優しく語り掛ける。フィリアは当初俺の言葉に驚き、戸惑った様子だったが、やがて少しずつ自分のことを話してくれた。




 物心着いた時には普通の人であるおじいさんとおばあさんに人里はなれた場所で育てられていた事。


 二人から聞いた話によると、自分はダークエルフと人、ヒゥースト族の間に生まれた子であり、赤ん坊の時に二人に預けられたと言う事。


 本来忌避されるであろう自分に、しかし惜しみない愛情を注いで育ててくれた二人。が、そもそも年老いていた二人はやがて寿命でこの世を去った事。


 二人が亡くなってからは一人でその場所で暮らしていたが、やがて離れた場所に住んでいた町の人々に見つかってしまった事。


 自身の容姿から正体がバレ、追われる形で長らく住んでいた家から逃げ出した事。


 行く場所もなく、当てどなく彷徨っている所を運悪く攫い商(奴隷として売れそうな者を文字通り攫い、売買する裏の商人)につかまった事。


 つかまりどこかに連れて行かれる途中、攫い商共々、魔物に襲われ途中わって入ってきたオークの襲撃で繋がれていた鎖が偶然解け、命からがら逃げ出したが、やがて追ってきたオークに追い詰められた事。






 「・・・それで偶然依頼で森に来ていた俺と出くわしたと言うわけだね。」


 一通り話を聞いたが、正直なんともやりきれない。彼女を育ててくれた二人が亡くなってからは特に酷い。部屋の中のなんとも重苦しい空気を払おうと勢い良く立ち上がる。突然の行動にちょっとびっくりして見上げてくるフィリアに、


 「ちょっと悪いんだけれど軽く上を向いて目を瞑ってくれるかな?」


と、声を掛ける。


 「え?は、はい。」


 突然の頼みに若干戸惑ったようだが素直に言う通りにしてくれるフィリア。彼女が目を瞑ったのを確認してから、普段使っている長剣で万が一のことがあってはいけないのでハーベスポーチからトランスペスターを取り出し構える。

狙うは彼女の首に付けられている鉄の首輪。どうやら何らかの拘束と固定の魔法が掛けられているようで簡単には外す事も、まして斬る事もできないだろうが、魔力をともなったものを打ち消す能力のあるこの剣なら問題はないはず。


ちなみに目を瞑ってもらったのは俺が剣を構えたら彼女がどんな反応をするかが目に見えていたからだ。


 上段に構え、一息に一閃。そのまま振り下ろした刃を返し、切り上げるようにもう一閃。軽く剣閃で起こった風がフィリアの髪を軽く波立たせる。と、同時に軽い何か硬いものがこすれる様な音がし、続けざまにゴトリという音と共にフィリアに付けられていた首輪が綺麗に二つに分かれた状態で床に転がる。


 響いた音か、はたまた自身の首から取り除かれた異物感からか閉じていた目を開いたフィリアがまず目の前で剣を持っている俺に驚き、すぐさま自身に付けられていた首輪がないことに気付き、床に転がっている真っ二つの首輪を見て更に驚く。


 「え、えっ、え?」


 俺と首輪に視線を行ったり来たりさせながら混乱しているフィリアのなんとも可愛らしい様子に思わず笑みがこぼれてしまう。

 そうして未だあわあわしているフィリアの前に再びしゃがみこみ彼女と目線を合わせる。




 「ねえ、フィリア。もし良かったら、_________俺と一緒に来ないかい?」




 俺の言葉に、出会ってから何度目かの彼女の驚いた顔を見ながら、俺は彼女に手を差し伸べた。



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