第6話 予期せぬ介入
初依頼を終えてから一週間が過ぎた。あれから三つ、同じようなモンスター討伐の依頼を受けたが特に問題なくこなし、この調子でいけば生活に困ることもないだろうと思えるくらいには余裕が出てきた。
今日もなにか良い依頼がないかギルドに来ている。中では早くも酒などを注文して既に出来上がっている人もちらほらいるようだ。この一週間で特に注目される事もなくなり初日のように絡まれることもなくなった。
ちなみに三度目の依頼をこなした後にギルドに成功報酬を貰いに言った際、それまで会えていなかったギルドマスターに会うことも出来た。かなり小柄なお爺さんだった。
「あら、リオス君。おはよう。今日も依頼を受ける?」
「おはようございます、キューリアさん。なにか良い依頼はありませんか?」
受付にいたキューリアさんと軽い挨拶を交わしてから何か依頼がないか聞いてみる。それを受けてキューリアさんは依頼書の束を捲っていく。
「そうね~、リオス君の腕前だったらゴブリンだとかだと実力に見合ってないだろうし。」
そう言いながら次々と依頼書を捲っていく。俺の腕云々はリフリーからの情報で、依頼時の戦闘履歴から把握しているらしい。やはり魔法などを自重しておいたのは正解だった。
「_______っあ、これなんてどうかな?10キール離れたところに比較的大きな森があるんだけれど、最近そこにハウンドウルフの群れが住み着いちゃったらしいのよね。」
そう言って手渡された依頼書に目を通す。キューリアさんの言った通り、森にハウンドウルフが住み着いたらしくそこを通る商人からの依頼だ。
ハウンドウルフは大体大型犬くらいの大きさで、10から20の群れを成して行動し、自身よりも大きな獲物すら狩りとるモンスターだ。今回確認されているのは12匹らしいが住み着いているのが森だということと、ハウンドウルフの素早さから正確な数は把握できていないらしい。契約金は300ゴールド、成功報酬は2500ゴールドだ。
なるほど、確かに今までの依頼よりは難易度が上だ。
「目標の数が多いのと、その数自体不分明だけれど。どうする?」
「ええ、問題はないと思うんでこの依頼にします。」
そう言って依頼書と契約金をキューリアさんに手渡した。
馬車に揺られる事少し、目的の森に程近い場所に降ろして貰い、そこから更に徒歩で歩く事しばらく。目的の森の入り口にたどり着いた。以前に訪れた林よりも木々が生い茂っており、森の奥の方は薄暗くなっていて見通す事ができない・
ハウンドウルフは狼のような体躯らしいのでこういった地形だとてこずる可能性があるかなと思い、装備を確認してから、慎重に足を踏み入れた。
森の中は思ったほど薄暗くもなく、木々の間から差し込む日差しで視界も悪くない。ただ、木の根などが縦横無尽に走っている為、少し動きづらいのは否めない。可能なら開けた場所で戦いたいものだが、果たしてどうなるか。周囲の気配を探りながら森の中を更に進んでいく。
どれくらい歩いただろうか?ずいぶんと森の奥に入ったなと思っていたころ、風に乗ってきた臭いに思わず背の長剣の柄に手を掛けて身構える。と同時に周囲一帯の気配を改めて注意深く探る。が、何の気配も感じない。警戒を解くことなく風上へ駆け出す。
香ったのは紛れもない、
血の臭いだった。
周囲を探りながら駆けた先にあったのは無残な戦闘の跡だった。辺り一帯には争った跡、それに伴い流れたのであろうおびただしい量の血痕と、死体の数々。俺が依頼で受けたハウンドウルフに加え、人の死体。近くには少し大きめの馬車の残骸が転がっていた。人の方は全部で6人。うち二人はどうやら商人のようで、残りの4人はその護衛のようだ。既に全員事切れている。
おそらくこの森を抜けようとしたところをハウンドウルフに襲われて交戦したが全滅したのだろう。
本来なら。
「・・・・、違う。この傷は。」
改めて確認した死体の数々、その傷を見て明らかな違和感を覚えた。ハウンドウルフはそれぞれ武器による裂傷により絶命している。これはおかしなことはない。商人の護衛が倒したのだろう。が、問題はその護衛の方だ。4人のうち一人はのど下を噛み切られていたが、残りの3人はせいぜいハウンドウルフの爪による傷しか受けていないようだ。ハウンドウルフからは。
残りの3人の命を奪った傷はどれも武器によるものだ。ハウンドウルフから受けた傷のわけがない。これは一体どういうことだろうか?護衛はほかにもいて仲間割れを起こした?それとも第三者がいた?
「(どちらにしてもこれじゃあ何があったのかわからな_____)っ!?」
勢いよく背後を振り返る。が、その先には木々が広がるのみ。だが・・・。
「(勘違い?いや、でも確かに今・・・)」
考えたのは一瞬。すぐさま駆け出しその場を後にした。遠かったらしく僅かだったが、確かに聞こえた。
_______人の悲鳴が。




