第2話 アーヘンバッハ商会
「さあ、どうぞ。お掛けください。」
あの後、ハンスさんの案内で応接室に案内された俺は進められるまま椅子に腰掛ける。やはりこのノスティーア王国で最も大きい商会だからなのだろう、セルビアン家ほどではないにしても調度品など高級そうな物が扱われている。
給仕の人がそれぞれの前に飲み物の入ったカップを置いて部屋から退出したのを合図にハンスさんから話しかけてきた。
「それでは改めて、お久しぶりですリオス様。とは言ってもまだ十日ほどしか経っておりませんが。早速訪ねにいらして頂きありがとうございます。」
そういってにこやかに挨拶をしてくれた。以前にも思ったがハンスさん、体格もよく凄めばなかなか迫力の出そうな人なんだけれども、こうして笑いかけている表情はなんとも愛嬌がある。やはり商売柄なんだろうか?
などとあまり関係ないことを思い浮かべていたが、とりあえずその事は置いておくとして、
「はい、早速お言葉に甘えて訪ねさせてもらいました。商会がどういった所かも興味がありましたから。」
「そうですか、そうですか。リオス様でしたら大歓迎です。」
そうして少しの間他愛ない談笑を続けていたが、ちょうど出された紅茶を飲み干したところを見計らってか、ハンスさんが本題に入った。
「それでリオス様、本日はどのようなご用件でしょうか?おそらく見学だけでなく何かしらご用向きがあるとお見受けしますが・・・」
さすがは支部長さん、というかバレバレだったかなと思い、思わず苦笑が出る。
「ええ、実はハンスさんにお願い、というか相談があって今日はここに来たんです。」
「ふむ、伺いましょう。」
そうして俺は今の自分の状況を説明した。とは言ってもだいぶぼかして話している。具体的には貴族だとか黒龍だとか・・・
そうして話を進めて、ある程度語り終えた頃、それまで黙って俺の話を聞いていたハンスさんが口を開いた。
「これはあくまで私の予想なのですが、リオス様は貴族の、セルビアン子爵様の血縁者ではありませんか?」
「・・・・・・えっ!?」
これには流石にびっくりして思わず声を上げてしまった。そしてこの反応自体、ハンスさんの推論を肯定しているものだと気づいたが今更遅いと思い観念する。
「・・・よく判りましたね。ハンスさんの考えの通りです。」
見抜かれてしまったのなら仕方がないと、黙っていたことを謝罪し(なぜかハンスさんが血相を変えて頭を下げようとした俺を押しとどめた)改めて現状の説明をした。流石にこうもあっさり見抜かれるとは思っていなかったが、もともとハンスさんはある程度信用できる人だと認識していた俺は特に問題はないだろうと思い早々に切り替えて話を進めていった。途中、どうしてこうもあっさり判ったのか訪ねてみると、最初にハンスさんを助けたときに使ったトランスペスターが見たこともないほどの業物だったこと、他の身につけている品々も上質なことからある程度の身分の持ち主なのではないかとあたりを付けていたらしい。更に付け加えると俺の行き先こそが決定的だったと教えてくれた。確かにミカロス=セルビアンだと納得。
これは後に聞いたことだが、この時ハンスさんも半ば命を代価にした博打を打っている気分だったそうだ。外れていればそれはそれで単なる勘違い。笑い話ですんでいたが、当たっていた場合、つまり貴族がお忍びだった場合最悪口封じの恐れもあると考えていたらしい。
「いや~、あの時は中々肝が冷えましたね。」
と、笑いながら話してくれた。
そんなわけで改めてハンスさんに事情を話した俺は(黒龍の事は今回も黙っていた。流石に不味いだろうから)今回の本題、今後の収入をどうすれば良いかをハンスさんに相談した。
「おおよそのことは把握しました。兎にも角にも収入を得るには何かしらリオス様ご自身にあった職を見つけることが第一ですが・・・」
そういってハンスさんは改めて俺を見る。
「初めてお会いし助けられた際も思いましたが、リオス様は大変お強い。私も職業柄、護衛を雇うことが多く、また地方などに行った際に兵士や傭兵なども数多く見てまいりましたが、その中でもリオス様の力量は飛びぬけているようにお見受けします。正直申しまして我々の護衛となっていただければそれはもう有難いのですが・・・」
そう言って俺に苦笑を向けてくる。
「それですとリオス様の見聞を広めるという目的には些か添わないでしょう。私どもも頻繁に他の土地を行き来している訳ではありませんので。とすれば・・・」
ハンスさんは一枚の紙を俺の前に差し出した。それには剣を加えた狼のエンブレムが描かれていた。
「候補としてはギルドですね。」
その言葉に俺もやはりそうかと頷く。実のところ俺もギルドを利用しようと考えていた。とは言え下手に即決するのもよくないだろうとハンスさんに相談しに来たわけだが、どうやら同じ結論に行き着いたらしい。
「リオス様はギルドの仕組みなどはご存知で?」
「はい、大丈夫です。」
「そうですか、では続けますね。私がリオス様にギルドをお勧めしたのは、先ほども申しました通りリオス様はお強い。当然ギルドに依頼されているものには命の危険が伴うものがほとんどですが、あまりに危険な依頼さえ受けなければリオス様でしたら問題はないでしょう。報酬なども普通の仕事よりも格段に良いですし、何より身軽です。こう言った事からリオス様のご希望に合っていると思われますがいかがですか?」
話を聞いた限り俺が思ったことと大差はない様だ。未だに自分の力量がどの程度の位置にあるのかは把握できていないが、ハンスさんの話を聞く限りどうやら問題はなさそうだ。
「ええ、大丈夫です。俺自身ギルドを利用しようかと考えていたので、ハンスさんの説明で決心がつきました。」
「そうでしたか。ではギルドを利用するには事前にギルドで登録をする必要がありますので、直接ギルドに行かれるのがいいでしょう。ああ、それともしまた何かありましたら、受付の者にリオス様のお名前で私に用があると言ってくださればお通しできるようにしておきますので。」
そういって互いに立ち上がり、俺は右手を差し出す。
「判りました、何から何まですみません。」
ハンスさんも右手を差し出し、握手する。
「いえいえ、受けた恩はきちんと返しませんと。それに・・・」
「?、それに?」
首を傾げる俺に、ハンスさんはいたずらっ子のような笑みを浮かべて、
「貴族の方と繋がりを持つことは商人としても、とても意味のある事ですので」
と、いかにも「これ、内緒ですよ?」と言った風な顔をするハンスさんに思わず笑みを浮かべてします。
「あははっ、それじゃあ今日はこの辺で。本当にありがとうございます、ハンスさん。」
そういった俺にいえいえと答えるハンスさんに改めて御礼を言って部屋を出ようとしたとき、後ろから声を掛けられた。
「あっ、そうそう。リオス様、ギルドに行かれる前に装備品を新たに買い換えたほうがよろしいですよ。私のように感づく者がいるかもしれませんので。」
なるほどと思い、またも助言をくれたハンスさんにわかりましたと伝え、俺はアーヘンバッハ商会を後にした。




