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黒龍の御子  作者: taka
第二章 剣と狼
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第1話 新たな生活

俺がセルビアン家に来て早10日が経った今日。今俺は爺さんの執務室に来ていた。ちなみに部屋には俺と爺さんの二人だけ。正面の爺さんはなんとも困ったものだという表情を浮かべている。かく言う俺もきっと似たような表情なんだろうけれども。


 「ふむ、予想はしていたがどうしたものか・・・」


 そう漏らす爺さんに俺は苦笑い。どうしてこんな状況になったかといえば、数日前の顔合わせから今日までの屋敷内の冷戦状態が原因である。


 俺が当初心配していたような衝突はあの食事後どころか、その後も起きることはなかった。これだけで見ればなんとも拍子抜けだったのだが、そう簡単にいくはずもなく直接的ではないにしても屋敷内で対立が起こっている。


 顔合わせでは滞りなく自己紹介が行われたのだが、それ以降ケフィウスさんたちは俺を完全に無視。いないものと扱っている。更にケフィウスさん直属の兵士たちはあからさまに俺に対して敵意を示しており、それが原因で屋敷内は常時ぴりぴりとしている始末。

 始めの早朝訓練から今日まで一緒に鍛錬しているユリアはケフィウスさん自身が兵士に指示しているのではないかと疑っているそうだ。それを聞いたときはそこまでするのかなとも思ったがユリア曰く、


 「直接ご自身が行動を起こすのは問題があるからと、兵士を使って嫌がらせをしているに決まっています!」


 と、なんとも憤慨していた。ユリア自身、どうやらケフィウスさんたちとはあまり仲がよくないらしい。


 これもユリアから聞いた話になるが、現在このセルビアン家には大きく分けて二つの兵士が使えており、一方はグエンさんを隊長とした屋敷警備の兵士。そしてもう一方は言わばケフィウスさんの私兵である。

 次期当主としていくつもの公務をこなす為、頻繁に王都やその他の都市を行き来する際の安全確保を理由にもともと屋敷警備であった兵士から腕の立つものを引き抜き、またケフィウスさん自身が雇った兵士などで固めているらしい。この引抜などで屋敷の警備をしている兵士たちの総合的な力量が低下したらしい。


 ちなみにオーギュストさんは数人の護衛の兵士しか連れていない。というのも、次男であるオーギュストさんはケフィウスさんほど外での公務がないらしく、あったとしてもケフィウスさんと同行することがほとんどな為必要がないらしい。そのオーギュストさんはというと、基本俺とケフィウスさんの対立?には不干渉を貫いている。俺としてはユリア同様仲良くなりたいわけだが、どうにも避けられている節があるので、食事時以外では顔を合わせていない。


 とは言え、顔を合わせていないのは残る三人、ケフィウスさんの奥さんであり、俺にとっては伯母にあたるテレーゼさん、従兄弟にあたるフィルグさん、エルミリアさんも同様食事時以外では顔を合わせていない。いや、フィルグさんはユリアと共に魔法訓練をしているところを一度だけ見たっけ。


そんな訳で現在この屋敷、とっても居づらいです・・・


 「ワシ自身が下手に介入しても、おそらく拗れるだけであろう。どうしたものか。」


 そういってため息を吐く爺さん。さすがにこの状態では歩み寄るというのも難しい。完全に敵視されているし。いよいよ行動に移ったほうがいいだろうと思う。


 「・・・爺さん、やっぱり俺ここを一旦出ようと思う。」


 その言葉に爺さんは表情を少し厳しくするがかまわず続ける。


 「このままだと何にしてもいい方向には行かないだろうし、一度距離を置いたほうがいいと思うんだ。」


 「・・・そうだな。確かに今はそれしかないか。」


 俺の言葉に頷く爺さん。実は数日前にも似たようなことを話しており、以前話していた今後の方針を大まかに決めていた。選択肢の三つ目、つまり・・・


 「二日ほど待ってくれ、住む場所などの手配をしておく。それとしばらくはこの町を拠点とすること。そうすれば何かあった際、ワシもお前にある程度力を貸すことができるだろうからな。」


 こうして少々考えていたよりも早く俺はセルビアン家を後にすることとなった。





 二日後、爺さんの手配で住居を確保できたというわけで俺は爺さんとエルオーネ、それといく人かのメイドさんたちに見送られてセルビアン家から出た。本当はユリアにも挨拶したかったのだが、二日前にケフィウスさんたちに付いて屋敷を空けている。まあ、それに合わせて行動したわけだから仕方がないわけだけれども・・・


 そんな訳で俺はエルオーネから渡された簡単な地図を片手にこれから自分の生活の拠点となる家に向かう。大通りの入り口付近にある少し大きめの建物、この大通りに何件かあるうち、一番大きく評判がいいらしい宿に着く。ここが今日から俺が住む場所だ。俺としては宿でなくてもよかったのだが、爺さんから慣れるまでは宿のほうがいいだろうと言われここに決定した。一階が宿泊者などが利用する食堂になっているようで、二階が宿泊用の部屋らしい。宿に入り受付に居た恰幅のよいおばさんに名前(当然セルビアンの名前は伏せてある)を言うと事前に手配してあったのだろう。すぐに鍵を渡され部屋がどこかを教えてくれた。ちなみに宿泊料は爺さんが三か月分出してくれた。その上当面の生活費なども持たせてくれたりと頭が下がる思いだ。生活が落ち着いたら改めて御礼を言いに行こうと思う。


 おばさんに一言お礼を言ってから二階に上がる。どうやら部屋は全部で20部屋あるらしく俺はその内の12番の部屋だ。中に入るとさすがに屋敷の部屋のような広さはないが十分ゆったりと生活できるだけの広さがあった。ベッドに机、それにクローゼットもあるのでそう生活には困らないだろう。とりあえずベッドに寝転がり一息つく。

 さて、いよいよ俺自身が自力で生きていかなくてはならなくなった。当面の生活費はあるし、何より爺さんの救援も望めはするが、さすがに頼り切るわけにもいかないし、何よりそれでは意味がない。自分の目で見、自分の力で生きていく為に旅立ったのだ。自らの道は自らの手で切り開いてこそ意味がある。そんな訳でまず収入がなくてはならない。一応宛はあるにはあるが、なんにしても俺は未だに世間を知らなさ過ぎる。となると誰か相談できる人が居れば良いんだけれど・・・

 そう考え、そちらにも一人心当たりがあったのでとりあえずは会いに行ってみようと思い宿を後にする。


 向かった先は大通りのちょうど中央あたりに位置するとりわけ大きな建物。掛けられた看板には天秤にとまる鳥のエンブレムと共にアーヘンバッハ商会と書かれている。中に入ると幾人もの身なりの整った、おそらくは商人だろう人たちが互いに話している。何かしら商品などを扱っているのかと思っていたが、そういうことはなく、広間とその奥に受付のようなものがあるだけだった。とりあえずは受付に居る男性に声をかけようとしたところ、


 「おや、リオス様ではありませんか!」


 突然広間の奥のほうから声を掛けられ振り向くと、そこには俺が会いたかった人物、ハンスさんその人が居た。




 

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