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黒龍の御子  作者: taka
第一章 御子の旅立ち
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第17話 顔合わせ

 「今思い返しても、なんとも度肝を抜かれた顔合わせだったわ。」


 そういって爺さんは愉快そうに笑った。自身の跡取り問題に頭を悩ませていた、そんなある日。突然自分の娘がどこの誰とも知らぬ男を連れてきて何事かと思いきや、突然その男が、


 「貴方がロレーンの父か。俺の名はガラハルト。彼女を嫁に貰いに来たっ!」


 と、いきなり宣言したらしい。何やってんの父さん?

 いきなりそんな宣言を受けた爺さんもあまりの出来事に最初は理解が追いつかなかったらしいが、更に父さんの正体が黒龍だと判ったことで怒りやら恐怖やらでおかしくなりそうだったと言う。

 そこから先はあまり詳しくは語ってくれなかったが、最終的には二人の仲を認め、爺さんが色々と根回しをしたり、父さんが色々と動いたり(引っ掻き回したり?)で、爺さんが話してくれた通りこの国とも不可侵を結んだことにより表面上、黒龍の求婚騒動は終息したという。


 セルビアン家の確執を除いて・・・。


 「以前話した通り、黒龍との不可侵の締結の架け橋となった功績によって子爵の地位を授かった訳だが、その事実がケフィウスとロレーンの確執を決定づけることとなった。」


 母さんが父さんに嫁ぐことにより、完全に母さんの次期当主としての権利はなくなり、名実共にケフィウスさんの次期当主としての地位が確かなものとなった。


 「?、母さんが完全に次期当主になる権利を失ったことで決着がついたんじゃないの?」


 「ついたな、次期当主の座。ロレーンの婚姻が端を発したことで賜った、セルビアン家当主、子爵としての地位がな。」


 「・・・なるほど。」


 言われてみて気が付いた。確かに見方によってはそういう捉え方もできる。出来てしまうと言った方がいいのかな、この場合。


 「自身の地位と、何よりその存在意義すら周りから危ぶまれていた、その原因として見ていた妹自らの婚姻によって齎された地位。・・・ケフィウスにとっては憤然たる、いや、それ以上のものが胸中を渦巻いたであろう。」


 そう言った爺さんの表情は先ほどの怒声を上げた際の覇気などは微塵もなく、憂いと悲壮がない交ぜになったものだった。





 執務室を後にした俺は部屋のベッドに横になりながら改めて先ほどの爺さんの話、この家での母さんたちの確執について考えていた。


 俺の伯父に当たるケフィウスさん。母さんの存在から自分の居場所を脅かされ、更にはその地位すらまるでおこぼれのように獲得したとさえ思っていることから、完全に母さんたち、ひいては俺にも強烈な敵愾心を抱いている。


 もう一人の叔父、オーギュストさんは次男という立ち位置からケフィウスさんの様に敵愾心は持っていないだろうということだけれど、やはり思うところはあるようで。


 順調かと思ったセルビアン家での生活にいきなり暗雲がたちこめた、などという表現が生ぬるいような事態になってしまったようだ。

 ・・・少しだけ母さんたちに愚痴りたくなりました。いや、母さんたちが悪いわけではないことは判っているんだけれどもね。


 「・・・はぁ~。どうしよう?」


 この後夕食時に残りのセルビアン家の面々との顔合わせが行われる訳だが、気が重い。重すぎるっ。絶対碌な事にならないよねっ、これっ!さっきもいきなり魔法ぶっ放されるところだったし。いや、さすがにもうそんなことはないだろうけれど。



 ・・・ないよね?広間に行った途端魔法が飛んできたりしないよね?





 その後、夕食の時間だとエルオーネの報せで広間に向かう。


 「・・・・・・(ピョコッ)」


 「?、いかがなさいました、リオス様?」


 「えっ、あ、いや。なんでもないよっ」


 ・・・うん、ちょっと考えていたら不安になっちゃって。念のため中を覗いてから入った。


 中に入ると既に爺さんと、右側にオーギュストさんとユリアが席についていた。先ほどの騒動であまり確認していなかったが、オーギュストさんはセルビアンの特徴である鮮やかな蒼の髪の毛を短く切り揃えており、温和そうな顔立ちに少々痩せ形だがやはり貴族の一員というべきか、その雰囲気はどことなく爺さんの纏っているそれと類似している様に感じられる。


 広間に入ってからどこに座るべきかと一瞬悩んだが、そこはエルオーネの先導によりユリアから一つ空けた席に腰を下ろした。途中、オーギュストさんと目が合ったが、別段何かあることはなかった。内心そのことに安心しながら一つ空けた席に座るユリアと軽く顔を合わせて互いに微苦笑を浮かべる。おそらくユリアにも何かしらと心配や迷惑を掛けただろう。そのことに申し訳なくなる。後で改めて謝っておこうと思う。

 そんなことを思いながら座っていると広間の入り口からメイドさんに先導されて四人、ケフィウスさんとその奥さんと思しき女性、そして俺よりも年上であろう二人の男女がそれぞれ入ってきた。

 思わず俺は緊張してしまうが、当のケフィウスさんは目が合うどころか、一切こちらに顔を向けることもせず爺さんの左側の席に着いた。先ほどの剣幕から警戒していたが、今度は一転、完全無視ときましたか。まあ、騒ぎが起きるよりはいいのかな?

 ちなみに他の三人はそれぞれ一瞥を送ってきました。友好の色の欠片もない、完全敵意なものでしたが・・・。


そんな訳で全員が席に着いたのを合図に爺さんの声で食事が始まったわけなんだけれども・・・


 「(空気が重い。ものすごく・・・)」


 会話もなくただひたすらに食事を進めていっている状態な訳だけれど、ぴりぴりとしたこの雰囲気はどうにかならないものかな?いや、そもそもの元凶である俺が言えた事じゃないんだろうけれども。だがこんな状態などどこ吹く風というように、隣のユリアは平然と食事を進めている。もしかして珍しいことではないんだろうか?なんていやな考えが浮かんだがあえて無視。これ以上気が重くなることを進んで考えたくはない。


 そんなこんなでなんとも精神的にくる食事は終わった。味なんてほとんどわからなかったよ。


 「・・・さて、食事も終わったことだ。そろそろ皆に正式に紹介するとしよう。」


 そんな爺さんの一言により今までの食事自体、前哨戦に過ぎないということを今更ながらに思い出した。


 うん、初めて父さんが本来の姿で訓練を仕掛けてきたとき以来かな。本気で泣きたくなったのは。


 


 

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