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黒龍の御子  作者: taka
第一章 御子の旅立ち
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第16話 敵意


 門を抜け屋敷の中へと入ると、すぐさま玄関ホールに控えていたメイドの一人がこちらに近づいてきた。


 「お帰りなさいませ、ユリアお嬢様、リオス様。旦那様から着替えた後執務室へ来るようにと言い付かっております」


 その言葉に従い一旦俺とユリアは自室へと戻り、外出用にと着ていた変装用の服から着替え、揃って執務室へと向う。入り口にはなぜか兵士が二人見張りについており、こちらに気が付くと頭を下げ礼をしてくる。とはいってもその相手はユリアで俺に関してはいかにも不審者を見る目つきだ。


 「・・・ユリアお嬢様、そちらは?」


 「説明は後ほどあるでしょう。御祖父様からは私たち二人とも呼ばれたんです。通しなさい。」


 ユリアの言葉に、しかし兵士たちは納得できないとばかりに扉の前に陣取っている。その様子にユリアから剣呑な雰囲気が漂って、なにやら不味い空気になってきた時、執務室の扉が開き、中からエルオーネが出てきた。


 「お二人ともどうぞ、お入りください」


 彼女の言葉に異を唱えようとした兵士たちだが爺さんからの命だというとやっと引き下がった。

 少々いざこざはあったものの、執務室の中に入ると爺さんとエルオーネの他に中年の男性が二人ソファーに腰掛けていた。その二人が入ってきた俺たちに視線を向ける。

 二人とも最初に入ったユリアに目を向ける。一方の男性は笑みを浮かべ、もう一方の男性はなぜかつまらなそうに視線を向けている。

 そして後から部屋に入った俺を見た瞬間、二人の表情は完全に一致した。

 驚愕。まさにそうとしか言い表せないといった表情で俺を目を見開いて見つめるが、次の瞬間、いきなりユリアにつまらなそうに視線を向けていたほうの男性が弾かれたように立ち上がり怒鳴り声を上げた。


 「貴様っ!!」


 その反応には流石に俺もびっくりし、固まってしまう。すぐさま後ろの扉が乱暴に開かれ、先ほどの兵士二人が執務室内に飛び込んできた。ご丁寧に腰に下げていた剣を抜刀状態で。

 それとユリアは最初の怒鳴り声の時点で完全に萎縮してしまったらしく、身を硬くしていたが兵士が入ってくるのとほぼ同時にもう一方の男性が腕を掴み引き寄せて、自らの後ろに下がらせていた。


 「えっ、ちょっ」


 やっとの事で再起動した俺がなんとかこの場をどうにかしようと声を上げようとするが目の前の男性から魔力の集中を感じ取り、また後ろから兵士が剣を構えたままこちらに距離を詰めてきているのを察知して流石に不味いと思い、自らも思考を切り替えようとした、ちょうどその時。




 「 や め ん か っ ! ! 馬 鹿 者 共 っ ! ! ! 」




 爺さんの怒号が響き渡り、一様に動きを止める。それを確認した爺さんはため息をついてからそれぞれに指示を出す。


 「ケフィウス、魔力を散らせ。兵も下げよ」


 「なっ!?父上!!彼奴はっ!!」


 「黙れっ!!・・・第一お前は勘違いをしている。彼はガラバルト殿でないぞ」


 その言葉で激昂していた男性、ケフィウスというらしいが、彼は眉をひそめて改めて俺を睨みつけてくる。しばらくそうしているとどうやら爺さんの言った事が事実だとわかったようで、未だ納得し切れていないと言うのがありありと感じ取れたが、兵士に下がるように言いつけた後、ソファーに腰を下ろした。

 状況を見守っていたもう一方の男性も安息のため息をついた後、後ろに庇っていたユリア共々ソファーに座る。俺もエルオーネに促されて、とりあえず刺激しないようにとそれぞれからちょうど中間の距離のソファーに座る。


 なんとも息苦しい空気が流れるが初めに声を上げたのはケフィウスさんだった。


 「・・・それで父上、この小僧は何ですか?この顔、とてもアレと無関係とは思えませんが?」


 いかにも忌々しいといったようにこちらを見ながら爺さんに質問する。流石にここまで敵意剥き出しにされるとこっちも参ってしまう。なぜここまで俺に対して敵意を見せるのだろうか?まったく見に覚えが無いんだが?


 「大体の想像はついているだろう?彼の名はリオス。ガラバルト殿とロレーンの息子だ」


 爺さんのその言葉にますます表情を険しくするケフィウスさん。最早憤怒と言ったところだろうか?流石に引くよ。

 ケフィウスさんは更に何かを言おうとしたが爺さんがそれを手を上げる事で抑える。


 「詳しくは夕食の後、話すとしよう。顔合わせもかねてな」


 そう言って爺さんは皆を下がらせる。が、俺だけは残るようにといわれたので座ったまま。部屋を出る途中にケフィウスさんに凄く睨まれたが、とりあえず目を合わせないようにした。

 それからユリアをともなってもう一方の男性も執務室を後にする。あの人からは敵意は感じなかったが、どちらかというと避けられているような感じがした。とは言えあくまでそんな気がしただけなのでなんとも言えないが。後を付いて行くユリアから心配そうな顔で見られたが大丈夫だと笑顔で見送る。それを見てか若干表情を和らげてユリアも出て行く。


 「・・・・・・ふぅ~、すまなかったなリオス」


 皆が出て行き、部屋の中には今、俺と爺さんの二人だけだ。爺さんはいかにも頭が痛いとばかりにこめかみを押さえている。


 「え~と、俺もいきなりの事で正直訳がわからないんだけど。何で俺、あのケフィウスさん?にあんなに敵視されてるの?なんだかもう一人の人も様子がおかしかったけど」


 俺の質問にまたもや、深いため息を吐く爺さん。大丈夫かな?


 「・・・お前さんが、というよりもお前さんの父親ガラバルト殿と、何よりロレーンのことが原因だ」


 「父さんと母さん?」


 それから爺さんから説明を受けた。

 俺に怒鳴った人はケフィウス・セルビアン。爺さんの息子で長男。もう一人はオーギュスト・セルビアン。次男であり予想はついていたがユリアの父。どちらも俺にとって叔父にあたる人たちだ。

 そんな人たち、特にケフィウス叔父さんがなぜあんなにも俺に敵意剥き出しだったかというと、爺さん曰く嫉妬と劣等感だとの事だ。


 貴族ベルグスト・セルビアンには三人の子がいる。長男ケフィウス、長女ロレーン、次男オーギュスト。本来貴族の家では長男が家を継ぐ権利が第一位であり、そこから二位、三位となっていく。つまり長男ケフィウスが順当にいけば次期当主なのだがここである問題が起きた。


 セルビアン家は代々その血筋から魔法に秀でた者が生まれ、その際たるものは精霊に愛された者と呼ばれる。そしてそう呼ばれるものが現れた。それが長女ロレーンだったのだ。

 ここで本来なら次期当主はケフィウスなのだが、その才からロレーンを次期当主にするべきだという声が多数上がった。


 これにより幼少の頃からケフィウスはロレーンとの才を比較され育った。ケフィウス自身、決して魔法の才が無い訳ではない。むしろ優秀な部類であり、魔法も5系統を操るほど。が、如何せん全ての属性を扱える事が出来るロレーンと比べられれば明らかに見劣ってしまうのも事実。

 よってケフィウスは半ば理不尽ともいえるその周りの評価にさらされる事となった。


 とは言え表向きに次期当主の座を争ったなどという事はなかった。それはロレーン自身が当主の座に着くことに執着がなかった為である。彼女自身兄であるケフィウスを次期当主に推していたほどである。

 だがその事実が余計にケフィウスのプライドを逆撫でした。まるで私には興味がないから譲ってやると言われているとでも感じたのだろう。当然ロレーンにそのような思いはない。だが幼少の頃からの劣等感ゆえにそれを受け入れる事が出来ないケフィウス。


 そんな状態が続いていたが、それは唐突に終わりを告げた。


 ロレーンの前に一人の、いや、一頭の黒龍が現れる事によって・・・。




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