第14話 屋敷内の散策
「・・・すみませんでした///」
しばらくして落ち着いたユリアは今俺の隣に座っている。先ほどまでの自分を改めて自覚したようで恥ずかしそうに顔を赤く染めて縮こまっている。そんなユリアの頭をまた撫でる。
「いいよ、気にしてないから」
撫でられているユリアはなぜだか先ほどよりも顔を真っ赤にしている。大丈夫かな?
「それにしても一体どうしたんだい?俺何か悪い事しちゃったかな?」
「えっ!ち、違いますっ!」
俺の問いかけに慌てたようにユリアが顔を上げて否定してくる。
「そうじゃなくてっ!・・・・・・嬉しかったんです」
「?、嬉しかった?」
ユリアの言葉に首をかしげる。どういうことだろう?
「・・・さっき話した通り私の夢を応援してくれる人は一人もいませんでした。・・・だから、嬉しかったんです」
「・・・そっか」
そう言って再びユリアの頭を撫でてやる。今度は嬉しそうに撫でられている。やはり若干顔は赤いけれど。
大体の経緯は聞いたけれど、きっとユリアが話し、俺が感じた以上にこの子は今まで自分の夢と周りの意向の確執に悩み苦しんでいたんだろう。俺はまだこの場所に来たばかりか、貴族の常識などもまったくわからないが。それでも俺はこの子の味方になってあげたいとそう思った。どんな理由や事情があったとしても自らの夢や想いを捻じ曲げられる事、それは正しいと俺は思えないが故に。
それからしばらくの間お互いに特に話す事も無く緩やかに時間が流れていった。とは言っても特に気まずい雰囲気だったわけではなく、むしろ居心地の良い時間だった。
それからどうやら使用人なども起きて仕事を始める時間になったと言う事で二人揃って屋敷に戻るのだった。
早朝の一件の後、しばらくして昨夜と同じようにエルオーネが部屋まで食事だと知らせに来てくれた。のだが、なぜかその後ろにユリアの姿まであった。
「せっかくですから一緒に行こうと思ったんです」
との事だ。それはぜんぜん良いんだけど・・・。何だろう。なぜかユリアが近い気がするのは?まあ、嫌われているわけじゃないみたいだから良いか。そんな事を考えていたからだろうか。知らず知らず、ユリアの顔を見ていたらしい。それに気付いたユリアがどうしたのだろうかと言った風に小首をかしげたが、すぐさまニッコリと笑いかけられた。うん、可愛いな。って、そうじゃなくて。
そんな事をしている内に食事ホールに着く。爺さんは既に来ていたので俺とユリアはそれぞれ昨夜と同じ席に座る。
その後は特にこれと言って何かあるわけでもなく食事は終了した。爺さんに今日はどうするのかと聞かれたので、とりあえずこの屋敷の中を散策すると言った。特に問題はないとのことなので決定。案内役にエルオーネを付けると爺さんが言ってくれたが彼女にも仕事があるだろうといって断ろうとしたがそれより先にユリアが自ら俺の案内役を買って出た為それで決定。
「どうやらずいぶんと仲良くなったようだな」
なぜかにこやかな表情で爺さんにそう言われたが・・・。
とにかくこれで今日の予定は決定。丸一日はかからないかもしれないが、その時はその時で改めて考える事にしよう。
「少し時間を置いてから兄さんの部屋に迎えに行きますね」
一旦別れて部屋に戻ってから朝に使った剣も含めて父さんから貰った二振りの剣の手入れをする事にする。手入れの最中にちょうど良いのでこの剣の銘を考えることにする。剣はそれぞれ父さんの、黒龍の角と牙から作られており、それぞれその能力を秘めている。
黒いにも関わらず、刀身の透き通っている方の剣は牙から作られており魔法などの魔力をともなったものを打ち消す能力がある。透き通ったと言う意味の古代語をアレンジして‘トランスペスター’と名づけた。
もう片方、刀身は同じく黒だがこちらは光すら反射しないほどの漆黒の刀身。角から作られたこの剣は魔法などを纏わす事ができる。同じく古代語から‘アディクション’と名づける。
それぞれ銘も決まり、手入れが終わったところでタイミングよくドアがノックされた。剣と手入れ用の道具をポーチに入れドアを開く。
「兄さん、迎えに来ました。出られますか?」
「ああ、大丈夫だ。それじゃあよろしく頼むよ」
そう言って部屋から出てユリアの横に並んで歩く。最初は1階から案内してくれるらしい。
ちなみにユリアは朝の皮製の服装ではなく、初めて出会った時と同じ淡い青のドレスに身を包んでいる。 それから一階のいつも食事をするホールから厨房、使用人用の待機部屋と来て今は一階の一番奥、裏口の横にある兵舎の前まで来た。
「ここがこの屋敷に常駐しているセルビアン家に仕えている兵士たちの宿舎兼待機場です」
中へと案内されると数人の兵士が椅子に腰掛けていた。ちょうどここが居間らしく、奥に扉が見えるがおそらくその先が兵士たちの居住スペースなんだろう。俺たちが入ってきた事に気付いた兵士たちは驚いた様子で一斉に立ち上がり姿勢を正した。あ、よく見たらあの警備長さんもいる。
「これはユリアお嬢様、それにリオス様も。いかがされましたか?」
警備長さんが代表して前に出てきてそう言う。どうやら昨日のようなことは無いようだ。爺さんから俺の事は聞いたんだろうか?
「いえ、特に用があったわけではありません。兄さんを案内する過程でここに立ち寄っただけです。皆さん気にせず楽にしてください」
ユリアの言葉に幾分空気が和らいだ。のだが、一番前にいる警備長さんは未だに厳しい顔をしている。っと思っていたらいきなり俺の方を向いてきた。え、もしかして昨日の続き?なんて思っていたらいきなり頭を下げられた。しかも深っ!
「昨日は知らぬ事とは言え誠にっ、誠に申し訳ありませんでしたっ!よもや子爵様のお孫様に刃を向けるとはなんという無礼!今回の件は私の判断ミスにより引き起こされたもの。部下たちに罪はありません。どうか私の命をもってお許しくださいっ!」
・・・・・・え~っと?つまりどういうこと?なんだか一気にまくし立てられてイマイチよく分からなかったんだけど。
困ってユリアに視線を向けるとなにやらため息をついている。
「警備長、その件は昨夜御祖父様から事故のようなものだった事ということで厳重注意と後日兄さんへの謝罪と言う事で話はついたと聞いていたのですが?」
あ、やっぱり爺さんが説明しておいてくれてたか。それに爺さんがもう問題ないっていったんならそれで終わりじゃないのか?
そう俺は思ったわけだが、どうやら目の前の警備長さんは納得いっていないようだ。下げていた頭を上げ更にまくし立てる。
「しかしっ!私は取り返しのつかないことを・・・」
「あ~、別に俺は気にしてませんよ?昨日は俺も悪かった事だし、不審者だと勘違いしても仕方ないと思うし。何よりお互いなんとも無かったんだからそれで良いじゃ無いですか」
「兄さんの言う通りです。御祖父様と、なにより兄さん本人が問題ないといっているのですから。この件はこれで終わりです。いいですね」
ユリアが話を閉め、まだ完全には納得できていないように見受けられたが最終的には警備長さんも納得?してくれたらしい。なんだかおかしな気もするけどこれ以上話をややこしくしたくないのでさっさと退散する事にした。
ちなみに警備長さんの名前はグエンというらしい。後から聞いた話だがグエンさんは元々王都で一兵士として仕えていたらしいがなにやら問題?を起こして左遷同然にこの家の警備長として送られてきたらしい。何でも王都で兵士として仕えるのは他の場所で兵士として仕えるよりも格段に困難だと言うのでグエンさんはなかなか優秀なんじゃないんだろうか?まあ、飛ばされちゃったわけだが・・・。なんだかその起こしたっていう問題というのもなんとなく予想できる気がする。
「悪い人ではないいんです。ただちょっと思い込みが激しいと言うか、なんと言うか・・・」
兵舎からの帰りにユリアがそう漏らしたのが何より印象に残ってしまった。
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