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黒龍の御子  作者: taka
第一章 御子の旅立ち
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第11話 ユリアの夢、憧れ

 あまりに沢山の出来事があった日の翌朝、どうやら昨日少し眠ったのが原因だろう。いつもより早い時間に目が覚める。日は昇っているようだがそれなりに早い時間帯のようだ。二度寝する事も考えたが、せっかくなのでこの屋敷内を散策しようと考えおきることにする。用意されていた寝巻き用のガウンを脱ぎ、ポーチから着替えを取り出し、上着を羽織って外に出る。

 

 廊下を歩いていると僅かだかメイドさんの姿が見えた。朝早いのにお仕事ご苦労様である。数人は俺に気付き挨拶と共に頭を下げてくる。昨日のうちに俺のことは屋敷の人間には伝わっているとのことだ。もちろん俺の引いている血以外の部分ではあるが。

 そうこうしている内に玄関ホールに出る。今更だが二階は客室と執務室だけと言う特に代わり映えしないので直ぐに見る場所がなくなってしまった。部屋の中を見ればまた違ってくるのだろうが・・・。

 一階は昨日食事をしたホール以外は調理場と浴槽、兵士用の兵舎代わりのスペースが占めているらしい。調理場からであろう、いい匂いがするがつまみ食いしにいくわけにもいかないし、兵舎はそもそも朝早い事に加え、万が一昨日のような騒動になっても困る。まあ、俺の事は話が行っているだろうが念のため。

 となると必然的に外に出るという選択肢しかなくなるわけで、俺は外に出る事にした。


 「う~んっ、あーいい天気だ」


 外に出て軽く体を伸ばす。うん、今日もいい天気で気持ちがいい。そのまま敷地内を散策する事にする。庭は一通り手入れが行き届いているようで無闇に草などが生い茂っている様子もない。そのまま敷地内を一周するつもりで歩いていく。

 途中警備の兵士なども見かけたがやはり俺の事は伝わっているらしくこちらに気付いた兵士はお辞儀をしてくる、のだが、なぜかそそくさと離れていってしまう。何でだろう?

 途中で昨日から疑問に思っていた小川の発生源も発見する事ができた。敷地の隅に位置する場所にちょっとした岩が鎮座しており、その岩の隙間から水が湧き出し、それが小川となって流れているようだ。魔法で何らかの加工を施しているのかとも思ったが、どうやら人工的なものではなく、普通の湧き水らしい。

 

 思わぬ発見をした後はそのまま小川を伝って歩いていく。そのうち昨日俺が逃げ込んだ屋敷裏の林にたどり着く。どうやら小川はこの先に流れているらしい。そのまま歩いていくとやがて木々の開けた場所に出る。どうやら小川はここにある小さめの湖に流れついているようだ。その先に流れている様子はないのでおそらくここから地下に流れていっているのだろう。

 その湖の傍らに屋敷と同じレンガ造りの4本の柱、その上に日差し除けだろう屋根のあるちょっとした休憩所のようなスペースがあった。おそらくは外でのお茶などの目的で作られたものだろう。テーブルと椅子も設置されている。


 その景色にも目を惹かれたが、何より目を惹いたのは先ほどから聞こえてくる音。その音のする方向にいる人物である。先ほどこの場所に来る途中に気配には気付いていたのでここにいるであろう事はわかっていたが、目の前の光景には少々驚いた。


 そこにいたのは妹、正確には従妹なのだが構わないだろう、ユリアの姿があった。ユリアがいるということ自体は驚くような事ではないのだが、今彼女が行っている事が驚きの原因だった。

 今彼女は昨日見たようなドレス姿ではなく、おそらくこの屋敷の警備の兵士たちが鎧の下に着ているものと同じ皮製の上下の服装に身を包んでいる。当然下はスカートなどではない。

 そしてその手に刀身の細い剣、レイピアを持ち振るっていたのだ。昨日の反応の速さなどから何らかの訓練をしているだろうことは予想していたが、まさか剣を振るっていたとは思わなかった。


 遠目から眺めているがユリアの表情は真剣そのものであり、一心不乱に剣を振るっているその姿は、一種の美しさがあった。邪魔をしないようにその様子を眺める。剣を振るうその姿を観察しているうちにわかったが、昨日今日剣を持ったというわけではないようだ。おそらくは年単位で振るってきたのだろう。若干の荒さはあるが、しっかりとしたその剣閃からそれが見て取れた。


 どくらい経っただろうか?やがてユリアが剣を納める。ずいぶんと動き回っていたので汗を掻いたのだろう。手の甲で額を拭う動作をした後、おそらく傍らにあるテーブルに行こうとしたのだろう。振り返ったところでばっちりと目が合った。ピシリッと音が聞こえてきそうなほどにユリアの動きが止まる。と言うか固まる。綺麗な瞳がまん丸に見開かれている。その驚いた表情ははじめて見る物だ。


 うん、この表情が見れただけでも早起きしたかいがあったな。起きたのは偶然だけど。

 そんな事を思いながら未だ固まっているユリアに向けて手を上げ挨拶をする。


 「おはようユリア。ずいぶんがんばっていた様だね」


 俺の挨拶を受けようやく我に返ったらしいユリアが、今度はなにやらあたふたしだした。一体どうしたんだろうか?どうでもいいが慌てている姿が妙に小動物チックだ。

 やがて何か自分の中で納得(観念?)したらしいユリアがこちらにトボトボと歩いてきた。


 「・・・おはようございます。どうしてここに?気配は感じなかったのですが」


 「ちょっと早起きしたから散歩がてら敷地内の散策にね。気配がしなかったのは消してたからだね」


 俺がそう答えるとなぜかジト目で睨まれた。あれ?なんで?


 「・・・わざわざ気配を消して覗いていたんですか?」


 「へっ!?いやいやっ、違うから!邪魔しちゃ悪いと思って気配を消してたの!」


 どうやら勘違いさせてしまったらしい。俺としてもホントに親切心でやった事なので誤解されてはたまったものではない。幸いというべきか、ユリアは解ってくれたらしくため息をついてからいつものユリアに戻ってくれた。


 「はぁ~。・・・解りました。とりあえずそこの椅子に座りましょう」


 ユリアに促され傍らにあった椅子に座る。向かい側にはユリアが座り前もって用意していたらしいタオルで汗をふき取っている。ある程度ふき取り終わってからタオルを置き、置いてあった木製の水筒の水を飲んで、やっと一息ついたのだろう。肩から力が抜けるのが見て取れた。


 「・・・リオス兄様、お願いがあるんですが」


 唐突にそう切り出され、少々面食らいながらもユリアに向き直る。


 「ここでの事は、内密にしていただきたいのですが・・・」


 「ここでの事?・・・・・・どういうこと?」


 いきなり内密にしてくれと言われたが一体何のことを言っているのだろう?本気で解らない俺は聞き返す。俺が冗談で聞き返していないと言うことは見て解ったのだろう。特に不快な表情もせずに説明してくれた。


 「ここで私が剣の稽古をしていた事です。・・・家の者にも黙っていて貰えませんか?」


 それからなぜユリアが剣の稽古をしているのを秘密にしたいのか説明を聞いてみる事にした。


 そもそもセルビアン家はその特殊な血筋から、魔道士の名門の一つとして数えられているそうだ。当然排出する人材は魔道士というのが最早当たり前となっているらしい。そんな中、ある意味異端な存在。それがユリアだ。彼女はこの魔道士の名門の家に生まれながら剣を手にする事を夢見ているのだ。

 とは言えユリアに魔法の才が無い訳ではない。むしろ優秀とさえ言えるだろう。ならばなぜ剣を持ちたいと考えたのか?


 「・・・正直とても子供っぽい理由なのですが」


 俺の質問に恥ずかしそうに頬を染めてその理由を話してくれた。まだユリアが本当に幼かった頃の話。今は亡くなったらしいユリアの母が寝る前に読み聞かせてくれた物語。そこに登場する騎士。何者にも屈せず戦うその騎士に憧れを抱いたのがそもそもの始まりだという。

 始めはただの憧れだった。お話に出てくる騎士の真似をして外で木の枝を振り回しては父親に怒られたらしい。なんとも微笑ましい。だが成長するにつれ、思いは薄れるどころか強くなる一方。別に何か深い理由があったわけではない。憧れがやがて夢に変わっていった。ただそれだけ。


 「ユリアは騎士になりたいのか?」


 「・・・解りません」


 俺の質問にユリアは困った顔をする。


 「騎士になりたいのか。私自身何度も自分に問いかけてきましたが、答えが出ないんです。でもやはり剣を握るのをやめる事はできなくて・・・」


 そう言って苦笑するユリア。

 やがて騎士の物語を読んでくれた母が病で死に、それでも騎士への憧れは無くなる事は無く、警備の兵士たちの使い古した剣を持ち出して振ってみたが、その当時のユリアでは振る事はできず、たどり着いたのが細く、子供であり女の子であったユリアでも振るう事のできるレイピア。兵舎で仕舞われていたものを以前の剣同様持ち出し隠れて振り続けた。が、それは長くは続かず、父や家の者に発覚。すぐさま取り上げられしかられたという。


 「これで私に魔法の才能が無ければ、また話は違ったのかも知れませんが。運がいいのか悪いのか、私には魔法の才能がありました。セルビアン家の魔道士を名乗れるだけの魔法の才能が・・・」


 ここで初めて知ったがユリアは水、風、木、土、氷、光の6系統を操る事が出来たのだ。魔法を扱えるものの平均が2~3系統である事からその倍扱えるというのは破格の才能だという。俺自身ユリアの魔法はこの目で見ているので納得だ。その事からもユリアが剣を握る事を皆許さなかったという。孫には大概甘いという(初耳)爺さんも難色を示したらしい。そんな訳でユリアは剣に触れることを禁じられたらしい。ユリアもその言いつけを守っている。・・・・・・表向きは。


 ここで最初のユリアのお願いに戻ってくるわけである。


 「つまりユリアはこうして見つからないように隠れて剣の修行をしている訳だ」


 俺の確認の言葉にコクリと頷くユリア。なるほど、だいたい事態は飲み込めた。俺としてはなんでまたユリアの夢を否定するのかという思いだが、そこは貴族として色々あるのだろう。下手に口出しするのも不味いかと思う。


 「・・・本来なら今日のように朝早く、誰にも見つからないようにして、万が一誰かが来てもすぐさま気付けるように気を張っていたのですが」


 いいながら俺を見てなぜかため息。なんで?


 「・・・リオス兄様が居る事をすっかり失念していました。・・・気配を消して見られるというのは更に驚きましたが」


 またもジト目で睨まれる。いや、ですから俺に悪気は一切無かったわけでして・・・。お願いだから睨まないで・・・。と言うかユリアの気配探知はこうして養われたのだろうか?なるほど、納得。

 俺がそんな事を思いながらしどろもどろになっていると、突然ユリアが笑い出した。


 「ふふふっ、冗談です。もう怒っていません。と言うか最初から怒っていません。いきなり現れて驚かされたせめてもの仕返しです」


 そう言ってクスクスと笑われる。う~ん、そんな風に笑われたら怒るに怒れない・・・。怒る気も無いけどね。そうしてひとしきり笑ったユリアは一転真剣な、それでいて不安そうな表情で俺に向き直る。


 「・・・それでリオス兄様、この件どうか内密にしてもらえませんか?」


 ふむ、俺としては特に問題ないしいいんだけど、どうせなら・・・。


 「黙っているのは構わないけど、一つ俺から条件、と言うかお願いがあるんだけど」


 「?、私に出来る範囲でしたら」


 「別にそこまで大層なことじゃないよ。ずっと気になってたんだけど俺と喋るときにあんまり堅苦しく喋らないで欲しいなってだけなんだ」


 昨日会ってから従兄妹とは言え兄妹にもかかわらず、どうにも堅苦しいやり取りをどうにかできないものかと考えていたのでちょうどいいと思い提案してみる。それを受けたユリアは少々面食らった様子だ。


 「敬語じゃなくて、今の俺みたいにさ。あ、それと俺の事兄様って呼ぶのも何とかならないかな?なんか呼ばれてなくてこそばゆいと言うか・・・」


 そう言って頬を掻く。せっかく出会えた兄妹なのだからもっと気兼ねなく話したいのだ。それを聞いて幾分復活したユリアは少し戸惑いながらも頷いてくれた。


 「解りました。それでは。あ、いえ。それならこれからは兄さんと呼びます。これでいいですか?」


 う~ん、まだ若干硬い気がするけれど、これは元々ユリアの礼儀正しい性格からかな?と思い妥協する事にする。


 「うん、それじゃあ改めて。よろしくな、ユリア」


 「はい、よろしくお願いします。兄さん」


 そう言ってお互いに握手する。今度はちゃんと笑いかけてくれた。

 さて、話がまとまったところである事を思いつく。


 「なあユリア。訓練はもう終わりかい?」


 「?、はい、本当ならまだ時間があるのでもう少し訓練したかったんですが・・・」


 ふむ、なるほど。時間はまだ大丈夫なようだ。なら問題ないな。そう思い立ち上がる。


 「ユリア、すまないがもう少しここにいてくれ」


 そう言い残し、俺は屋敷へと走り出した。


 

  

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