第9話 ルーツ
こちらの方で間違いがありましたので訂正します。
セルビアン子爵は叔父ではなく祖父です。
申し訳ありません。
ベルグスト・セルビアン子爵
ノスティーア王国南西部の一領地を治めるセルビアン家の現当主。壮年の老紳士だが今だ当主としてセルビアン領を治める貴族の一人。本来であれば子爵の地位にある貴族では領地は狭い部類に入る。と言うのもセルビアン子爵は元々男爵であり、20年ほど前に当時の国王から子爵の地位を授かったため、子爵としての歴史が浅いと言う原因がある。
元々セルビアン家はその血筋から極めて魔法の才に恵まれた者が生まれ、それによってもたらされた戦による武功により爵位を与えられた家系である。だが、この100年あまり大規模な戦は起きていない。せいぜいが小規模な小競り合いがほとんどである。
にもかかわらず子爵の地位に就いたのには、表向きには長年の王国に忠誠を尽くしてきたことによるものであるという事になっている。
「_____だが、真相はそうではない」
色々と驚きの連続だったセルビアン家訪問。その騒動もひとまず落ち着き、現在はセルビアン子爵、つまり俺の祖父に当たる人と話している。執務机の椅子に腰掛けた祖父は向かいの椅子に座る俺に語りかけている。
「我がセルビアン家が取り得たある協定、その功績の褒美として子爵の地位を授かったのだ」
「ある協定?」
始めは俺と言う存在に大いに驚愕した祖父も今は落ち着き、俺を自分の孫として受け入れてくれている。正直会えたとしても受け入れて貰えるか不安だったため、あまりにあっけないこの結果に喜んでいいのだか、気負ってきた自分を馬鹿にすればいいのか判断に困る。
「そうじゃ。その協定とは、不可侵。お前さんの父上、黒龍ガラバルト殿と結んだもの」
まあそれは置いておくとして、今は祖父が俺の知らない、両親とセルビアン家との関わりを聞いているところだ。
「当時ガラバルト殿の正体を知っていたのはロレーン、お前さんの母さん以外ではワシとロレーン以外の兄弟たちと一部の使用人だけじゃった。・・・だがそれがあるところから洩れ、国王陛下の知るところとなったのだ」
「・・・父さんのことが知られるとそこまで不味いことになるの?」
ちなみに祖父からは喋りやすいように、いつもどおりの口調で話して構わないと言われている為、両親と話すように話しかけている。
「お前さんにとってガラバルト殿、父上はどういった存在なのだ?」
「え?う~ん、父さんはとにかく強いかな?いつもからから笑ってて、むちゃくちゃ言う割には色々と考えてて、結局正しい、こんな感じかな?」
俺が改めて思い浮かべて父さんの事を説明すると面白そうに祖父はそれを聞いている。
「ふふふ、お前さんにとっては強く、良い父上なのだな」
そう言って嬉しそうに言った後、表情を改めてまた話し出した。
「黒龍ガラバルト。幻獣族の中でもとりわけ強大な力を持つと言われる龍種、その頂点に君臨すると呼ばれている黒龍。最早伝説とまでされる存在であり、抗えぬ力の化身とまでされる存在。・・・そのような存在が自らの国にいたことがわかったのじゃ。知った当初の国王はさぞ戦々恐々だったじゃろうな。無論ワシ等も最初はおなじであったが」
そういってハッハッハッ、と笑う祖父。ある程度母さんからは聞いていたが、改めて聞いてみると確かにとんでもない存在だな家の父さん。俺からすると、ちょっとやんちゃなおじさんなんだが。
だがそれを聞いて納得した。そんな相手と正面切ってなんて、誰でも戦いたくはない。それゆえに黒龍である父さんとの不可侵の協定が評価されたわけだ。
「当時、まったく気負いもせずガラバルト殿と関わる事ができたのはロレーンただ一人だけじゃった。いくつもの問題はあったが、ガラバルト殿自ら国王陛下の下へ赴き王国への不可侵を表明した事でそれらもほとんどが解決。結果二人は結ばれる事となった」
祖父は懐かしそうに虚空を見つめている。おそらくは二人の当時の姿を思い浮かべているのだろう。
「最初の一年は二人ともこの屋敷で生活しておったが、やがて自らの存在で騒乱を招く事を危惧したガラバルト殿はワシ等に別れを告げてロレーンと共に旅立っていった。ワシはガラバルト殿との不可侵を結ぶ架け橋となった功績の褒美として子爵の爵位を授かったと言うわけだ」
そう言って長く話していた祖父は一息つく。
ある程度の話は両親から聞いていたが、こうして別の当事者から話を聞くとまた違って聞こえるから不思議だ。いわばこの話は俺自身のルーツでもある。この話が聞けただけでもここに来たかいがあったとそう思える。
「・・・実はな、ワシとお前さんは今日初めて会った訳ではないのだぞ?」
「えっ?」
「お前の両親が旅立って3年ほどしたある日、ひょっこり二人が戻ってきてな。どうしたのかと思いきや、突然ロレーンが抱えていた赤ん坊を差し出してきて『この子が私たちの子よ』と言ったときには本当に驚いたものだ」
そう言って懐かしそうに笑う。流石に覚えてはいないが、そうか。祖父とは会ったことがあるのか。祖父も二人の間に子供が生まれている事を知っていたから俺の事もすんなりと信じて貰えたわけだ。
「その時は数日間滞在した後かえっていった。それからは今日と言う日まで会ってはいない」
そう言った祖父の表情は寂しそうに見えた。祖父には三人の子がおり、うち女の子は母さんだけだと言う。色々と思うところもあるのだろう。
そこでふと母さんから預かっていた手紙の事を思い出す。色々とありすぎてすっかり忘れていた。
「あの、え~と、御祖父様?」
「ここは公の場ではない。お前さんの呼びやすいように呼んで構わん」
「じゃあ爺ちゃんで。えっと、母さんから手紙を預かってるんだ」
そう言ってポーチの中から手紙を取り出してじいちゃんに渡す。
「ロレーンから?ふむ、確かに受け取った。それではリオスよ、長旅で疲れたじゃろう。部屋を用意させるのでそこで休みなさい。夕食になったら呼びにいかせるのでな。続きはその後にするとしよう」
そう言って爺ちゃんは傍らに置いてあった呼び鈴を鳴らす。するとすぐさま扉がノックされ一人の女性が入ってきた。
「お呼びでしょうか、旦那様」
入ってきたその女性はいわゆるメイド服を着ている。髪を後ろでまとめており、きりっとした表情に、何より姿勢が凄くいい。こう、ピンッ!という表現がぴったりなくらいに。
「彼女はエルオーネ。我が家の侍女長を勤めている。エルオーネ、この子がリオスだ。以前話しておいたな?」
「はい、旦那様。把握しております」
今の会話を聞く限り、このエルオーネさんは俺の事、俺が黒龍の血を引いている事を知っているらしい。
「リオス、このエルオーネはお前さんのことを知っておる。他にこの家でお前さんのことを知っているのは先ほどお前さんをここに案内したユリアを含め、ワシの血縁者以外はおらん。何か困った事があればエルオーネに言えば問題はない。しばらくはお前さんに就けるので頼りにするといい」
そう言って爺さんは傍らに来たエルオーネさんにいくつかの指示を出す。
「わかった。リオスです。お世話になります、エルオーネさん」
「エルオーネで結構です、リオス様。それではお部屋にご案内いたします」
「それではまた夕食でな、リオス」
「うん、わかった。それじゃあ、また後で」
そう言ってエルオーネさ、エルオーネの後を付いて部屋を出る。それから来た道を戻り、玄関ホールまで来た所で、向かい側の廊下へと歩いていく。どうやらこちら側が客室などもある生活スペースのようだ。
やがて俺に割り与えられたらしい部屋の前に着いた。それにしても長い廊下な上、右を向いても左を向いても同じ光景が続いている。これ、一人で自分の部屋にたどり着けるかな?と内心冷や汗を掻く。
「リオス様。こちらがお部屋になります。」
エルオーネが扉を開き、中へと入る。入ってびっくりしたが、中は非常に凝った造りになっているのが俺でもわかる。床に敷き詰められた絨毯にいくつかの家具など、どれも見た事がないような輝きを持っている。なぜベッドに屋根が付いているのかはわからなかったが。
「えっと、こんな凄い部屋を使っていいんですか?」
「もちろんでございます。旦那様からのご指示でリオス様にこのお部屋で生活していただくようにと。・・・何よりこちらのお部屋はリオス様のご両親がお使いになられていたとお聞きしております」
その言葉には流石に驚いた。改めて部屋の中を見渡す。爺さんの話だと両親が二人で生活していたのは一年ほど。それから20年ほども経っているのに、未だにきちんと部屋を残しているという事になぜか胸が熱くなる。
「・・・わかりました。ありがたくこの部屋を使わせて貰います」
「何かございましたらそちらの机に置かれている呼び鈴でご遠慮なくお呼び出しください。それでは夕食時にお呼びに上がります」
そう言ってエルオーネは頭を下げると部屋を後にした。
改めて部屋を見渡した後、上着を傍らにあった椅子にかけ、ベッドに横になる。
「っうお!?」
ベッドに体が思った以上に沈み込み驚きの声を上げる。始めは驚いた上、身動きがとりにくかったが、慣れてくるととても寝心地がいい。
色々あった事もあり、自分が思っていた以上に疲労がたまっていたのだろう。段々と睡魔が襲う。エルオーネの話では夕食時に呼びに来てくれるということなので、一眠りしておくかと思いそのまま睡魔に身を委ねる。
これから俺はどうするのかな?と、人事のように思いながら眠りに就くのだった。
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