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「おはようごさいます」
拓斗はいつものように、営業にまわっていた。
拓斗は以前まで工場で働いていたのだが、残業があまりにも多く、働き過ぎがたたり身体を壊してしまった。一週間近く病院のベッドの上で今後のことを考えて、今の仕事に転職したのである。
拓斗は、人と喋るのはあまり得意ではなかったが、就職難の真っ只中、社員になれたことでも奇跡である。
拓斗の会社は、主に機械機器の販売をしている会社である。工場と違うところは色々あるのだが、もっとも違うところは給料面である。今の仕事は毎月の売上で給料が変わってくるということである。固定給は決まっているが、びっくりするほど安い。そこから売上によって給料が上乗せされるのである。やりがいはあるが、世の中そんなに甘くない。この会社に入って半年になるが、前の工場のような給料はまだまだ稼ぐことはできない。当たり前のことではあるのだが、嫁の香奈はそれを分かってくれないのである。
何かあれば……
「どうしてこんな給料少ないの?」とか…
「どうして前の会社やめちゃったの?」とか…
「違う仕事探したほうがいいんじゃないの」とか…
イヤミばかり言われるのである。
給料が安いと生活が苦しくなるのは分かるのだが、生活を切り詰めるとか方法はいくらでもある。急に慣れた生活を変えることはできないことは分かっているが、1から仕事をするということがどれだけ大変なことなのかも少しでいいから分かってほしいものだ。
給料明細をもってかえるたびに拓斗は嫌な思いをしているのである。
「西岡さん、この件どうなってるの?もう納期過ぎてるよ」
「あ〜その件は…今日には入ってくると思います」
「思いますではダメだよ。今日絶対に持ってきてよ」
「はい、確認してすぐに。」
「頼んだよ」
「はい、では失礼します」
拓斗は深々と頭を下げ外にでた。
時計を見るともうお昼である。
拓斗はコンビニでおにぎりを2つ買い、車の中で携帯を見つめながらむさぼった。
最近は仕事のせいで、神経的にものすごく疲れる。営業まわりが終わってからも事務所で事務作業があるのでなかなか帰れない。
以前までは身体だけの癒しを求めてフラフラしていたが、最近はそんな気分にもならないのである。実際はあまり家には帰りたくない。だから帰りが遅くなるのはよかったが。
拓斗は車のシートを倒して横になりながら、携帯の電話帳を何気に見ていた。
今はお客の名前ばかりが増えてきた。実に淋しい電話帳だ。
『そう言えばこの前の飲み会でメアド聞いたんだったな〜』
拓斗は愛のメアドを聞いたことを思い出した。
前までは女の子のメアドを聞いたら即メールしていたが、最近はそんな気分にもなれなかった。
『せっかく聞いたんだし、一度メールしてみるか』
返事を期待するわけでもなく、何気に送ってみた。
「さぁ〜昼からもがんばろうかな」
拓斗は大きく伸びをして車を走らせた。




