新人宰相閣下
「……まぁ、私としては、彼女の言い分の方が正しい反応のように思えますけれどね」
藍色の髪の騎士は、そうゆったりと微笑むと、テーブルにつっぷして酔いつぶれた彼女を抱きあげた。
「あなたは少し、世間知らずが過ぎるところがありますね。セージ閣下」
清司よりも少し年上だという、この騎士にからかわれるように言われて清司は渋面を作った。
この世界に来てからというもの、思いもよらないことばかりだ。
その一端は、騎士に抱えられている女によるものだった。
君島葉子という女は、奇妙な女だ。
清司の周辺にはまずいないタイプだ。
染めていない黒髪は肩より少し長いほど。背はあるがコートにジーンズという風体のせいでまるで少年のようだ。顔の造りは平凡そのもので化粧っけもない。
素直に他人に感謝しようとしない物の見方は、ひねくれているとしか言いようがない。
そして驚くほど酒に強い。
清司が飲み込むのも精一杯の酒をがぶがぶと水でも飲むように飲んだかと思えば、満足したかのようにテーブルに突っ伏して寝てしまった。
こちらの世界に飛ばされてきた人間がいる。
そう聞いて、清司は素直に嬉しかった。
清司自身はこの世界に三日前に飛ばされてきて、あらかたの事情は呑み込んだあとだったから、花畑で彼女を見つけたときには、天使を見つけた気分だった。
女性だとわかって、自分が守らなければとも思った。
清司のせいで異世界に飛ばされてきて、たとえ元の世界に戻っても清司の車に轢かれて死ぬかもしれない。
そう言われて、彼女にはそれ相応の責任を負うことを決めた。
だが。
当の本人の態度はこちらの手伝いなど大きなお世話と言わんばかりだ。
挙句、被害者面をするな、と。
本来は、何の恩も義理もない彼女を助けてやろうとしているというのに。
「この子がもう少し大きければ、私が愛人にしてさしあげるんですけれどね」
抱きあげられても抵抗もしない君島葉子をベッドに寝かしつけて、騎士は微笑ましそうに彼女の頬を撫でた。
「は?」
彼女はすでに成人しているから、このフェミニストが興味本位で手を出しても問題はないはずだが、
「彼女、いったい幾つなんですか? 十三歳ぐらいかな」
この世界の成人は十七歳だ。
そして、未成年の飲酒は禁止されている。
二十四歳という本当の年齢を教えてやって、はたして彼女は幸せになれるのだろうか。
そもそも彼女のいう幸せは、清司の感覚とはかけ離れていそうだ。
清司は迷ったまま、口を噤んだ。