砂と海
翌日、朝日と共に起きて準備を済まして、私たちは砂漠へと向かうことになった。
ベイーコロという生き物はこぶのないラクダのような生き物で、荷持を積ませて丸い背に人が乗っても幾日を歩ける強い足腰を持っている。
乗ってみると馬より座高は高かったが、要領は馬と似ていた。手綱を握って鐙にしっかりと足をかけていればいい。
「砂漠で、方向を見失うことは水を無くすことと同じく命取りです」
砂除けのマントを半袖に羽織ったアイスレアさんが今日も元気に説明してくれる。
「普通は、方位磁石と地図でオアシスを確認しながら行程を組み立てますが、何より大事なのは水の確保です。水の減りで立ち寄るオアシスの数を増減していくんですよ」
彼女は、ガイドというにはものすごく物知りで、サボテンによく似た砂漠の植物の幹には水が蓄えてあることや、太陽や星で方向を見る方法も教えてくれた。
砂漠を歩いて渡ることはできない。
容赦なく熱せられた熱砂の海を歩けば、丈夫な靴といえど熱せられればまず中の足が耐えられない。皮膚が焼けて歩けなくなる。だから、ベイーコロや幌馬車を使って正午の暑い時間をオアシスで休憩しながら進むのだという。
地図で砂漠の真ん中に突如として現れるオアシスはちょっと感動ものだ。
この公大な砂漠の中にはオアシスを拠点とした領地もあるそうで、私は陽炎の浮かぶ砂の海を見渡して溜息をつく。
広い。
草原にも思ったが、この世界は広い。
私の想像なんて、本当に軽く超えるのだ。
幾つかのオアシスを中継して、夕方に少し小規模なオアシスに泊まることになった。これから数日はこういう野宿だ。テントがあるだけマシだろう。夜の砂漠は昼間と違って非常に冷えるので、火の番は交代ですることになった。
夕食は、干し肉を火であぶって日持ちするチーズを焼いたパンに挟んで食べた。アイスレアさんに食事時に、と差し出されたのは乳酒という甘いお酒だった。一口飲んで喉がかーっとなったから相当きついお酒だが、いい具合に酔えていい。夕食が終わるころにはマントが必要なほど冷えてきていたので、このお酒があれば火の番も出来そうだ。
決まった時間に起きられる私の火の番は後攻に決まったので、私は二人より先にテントで眠ることになった。
テントの寝袋に入ったら、自分で思っていたよりも疲れていたようで、目を閉じたらすぐに意識は夢の中へ飛んでいった。
ついでに、私の幸せな時間も羽根が生えて夜空に飛んでいってしまったらしい。
「……………あれ」
私が再び起きた時には、テントもベイーコロも、旅の連れも、あとかたもなく消えていたから。