家族と私
次の日、私はとても清々しい思いで目覚めた。
とても晴れていて、いつものように伯爵家の庭は美しい。
朝日を受けて新緑がきらきらと輝いている。
約束の日だ。
翌日の朝食のあと、伯爵の執務室へ呼ばれた。
入って思わずドアの前で立ち止まる。
勢揃いだ。
ガリアさんを始め、赤カブ頭のタンザイトさん、ウェルテアさん、マッジョリさん、タルキア、サルミナ、ホイエン、他に厨房、メイド、庭師の皆さんが伯爵を囲んで待ち構えていた。
「皆、どうしても君に一言挨拶をと聞かなくてね」
伯爵の宣言に、ドアを開けてくれたガルーダさんを見上げると、頷いて中へ入るように私を促した。
いや、ちょと待って。
淋しいとか、お元気でとか。
そんなこと誰も言わないのに。
「わたくし共一同、あなたさまのご意志と、御心のまま、あなたさまのお幸せを切に願っております」
いってらっしゃい。
あなたは、いつでもここに帰ってきて良い。
あなたの家はここだ。
うん。
私は肯いて、涙は出さなかった。
ひとりひとり顔を見る。
甘やかしてくれた。
可愛がってくれた。
私がここへ来たのは、ほんの二週間ほどのことだったのに。
この世界へ来て、半年。
色々なことがあったけれど、私は幸せなときを過ごさせてもらった。
この思い出があれば、私はきっとこの先どんなに苦しいことがあっても耐えられる。
ここへ、帰ってこようと思う。
私は私のために、この素晴らしい家族のためにも生きよう。
私はたくさんの人に生かされた。
だから、これからも生きる。
全部抱えて、生きる。
伯爵と目が合った。
「困ったことがあったら、何でも一つだけ叶えよう」
一つだけ。
そんな厳しいところも尊敬している。
それに、この一つのお願いを、きっと伯爵は何だって叶えてくれるだろう。
この人が微笑んでくれるから、私も泣かずに笑顔でいられた。
「行ってきます」
ここから、私の旅が始まる。