長話と昼ドラ
ガリアさんにお茶の用意をしていただいたテーブルにつくと、伯爵は鷹揚に頷いた。
この伯爵の良いところは見た目の入れ墨通り偉そうだけど高圧的でないところだ。必要のない限り、人を呼びつけるなんてことはあんまりない。私は伯爵に面倒見てもらってる身だから本当言うと使用人と同じなはずなんだけど、伯爵は私のことを客人として扱うし、あまり執務室なんかに呼ばれたことはない。
「今日のお茶は、シーサイド地方で採れた二番茶を煎じたものだよ。素晴らしい。まるで、自分の帰りを待つ愛妻がいると知りながら浮気相手にうつつを抜かす背徳感のような甘さがあるね」
伯爵は優雅な所作で繊細な磁器の白カップに口をつけてのたまった。
そんな昼ドラな感想はいりませんよ伯爵。
良い人なんだけど、やっぱり変人だ。
客人として君を迎えると言いながら、まるで面倒見のいいあしながおじさんのように私に商売をさせてみたり。
「今日、私の部下がシーサイドから戻ったのだよ」
カップをソーサーに戻すと、改めて伯爵は明るい緑の視線を上げる。
この屋敷に来てその翌日、伯爵は私を使用人だという人たちに引き合わせた。
メイドは二十人、執事が二人、従者が二十二人、フットマンが十一人、コックが十七人、庭師が三人、御者が五人。総勢七十七人。この数が少ないのか多いのかはわからなかったけれど、大広間に全員が集まるとちょっとした集会だ。
これからここに暮らすと伯爵が私を紹介すると、暖かい拍手が起こった。
彼らは皆、伯爵の使用人で、部下で、家族だという。
だから、伯爵の客人は自分たちの客人だ。
そう言ってくれたのは、私の面倒を見てくれることになったガリアさんだった。
「ヨウコ、君の面倒を見ていたリーエという女性をここへ呼ぶことになった」
伯爵の話はこうだ。
伯爵は戦争で疲弊した西国の立て直しにかかることになるので、屋敷を離れがちになる。人手が足りないのでガリアさんにも仕事をしてもらわなくてはならない。だから、私の記憶がない時に私の面倒を見てくれていた彼女を呼ぶことにしたのだという。
「―――それは、奴隷としてですか?」
異世界の人間は奴隷だと言った王様の言葉が本当ならば、私はこの屋敷に飼われているということになるのだろうか。
実のところ、この一週間考えていたことだった。
伯爵はじっと私を見、それから深い溜息をついて「長い話になる」と前置きした。
「君はね、実に運が良かったのだよ」