ブリキとスーツ
もうちょっと居てくれても誰も文句なんか言わないと思うんだけど!
私は半泣きで声にならない悲鳴を上げた。
かよわい乙女を放り出していった黒マントに恨み事を呟きながら、覚悟を決めて、花畑の向こうからやってきた一団と向き合う。
彼らは砂埃をあげて私の前で一時停止したかと思えば、五、六人のブリキのおもちゃは重さなどないように恐竜もどきから飛び降りて、あっというまに私を取り囲むと、
「……ええと、とにかく話し合い必要だと思うのですが……」
問答無用に、腰に佩いている剣を抜いてこちらに突き付けてきた。
私は迷わずホールドアップだ。
言葉が通じるんじゃなかったのか! ばかの壁かこれ!
しかもこれ以上喋るなと言わんばかりに剣先が近くなるし。
ええ、ええ、もうしゃべりませんとも!
しかしここの人はほんとデカイな!
私も身長低いわけじゃないのにさっきの黒マントといいものすごい威圧感だよ!
腐った気分で口を閉じると、ざっと隊列が分裂して、馬車から何やら人が現れた。
お?
おお?
見たことのあるよそのお姿!
「乱暴はやめてくれ」
巨人サイズのブリキのおもちゃ達に劣らない長身が、なんとも透る声で私を牽制する剣先を下げさせた。
さらさらの黒髪に茶色に近い切れ長の黒瞳、しかし顔立ちは私が知るどの日本人よりも外国人ぽく整っていた。何とも違和感。でもとんでもなく美形だ。
何よりその美形は、ビジネスシーンではお馴染みのスーツを着ていた。
「た、助けてください!」
馴染みのある格好を目にできて、すがらないわけにはいかない。
ほらやっぱり私あの黒マントに担がれてただけなんだよ!
そのカッコいい(助けだと思うと後光が見える)美形に思い切りヘルプを叫ぶと、彼は少し困った顔で頷いた。
「俺といっしょに来てくれ。事情は説明する」
……何、そのなんだか嫌な予感のするセリフ。