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とりかえっこ漫遊記  作者: ふとん
32/209

おにぎりと夢

 うわぁ。絶対馬合わない。



 何とも言えない気分で起きた。あれ、ホント自分? 

 でも不思議と、あれは自分自身のような気もしている。別人だよあれ。


 森は、まだ夜だ。

 俊藍が焚き火に小枝をくべながら、静かにこちらに視線を投げてくる。


「寝ていていいぞ」


 そうはいきませんよ。あなたが眠れないでしょうが。

 私はもともと火の番を変わるためにわざわざ起きたんだから。

 自分で決めた時間に起きられるのは私の数少ない特技だ。……無理矢理起こされたら寝起き悪いからあんまり役には立たないけどね!


「あとは私見てるから、寝てよ。俊藍」


 そう言ってマントを差し出すと、俊藍は苦笑して寒いからと私に押し付ける。自分は近くの木の根元にもたれて、腰の剣を抱いて目を閉じてしまった。何かあればすぐに起きるんだと思う。

 これが習慣になる生活って、どんな生活なんだ。


 静かな蒼の瞳が私を視界に収めるように閉じると、俊藍はその神秘的な印象のまま、どこか遠い人に思えた。

 きっと、彼の側に居るには、神様に愛されていないといけない。

 拾われた私にとってこうして面倒をみてもらっていることは幸運だけれど、それは俊藍にとっての幸運とは言い切れない。

 狼になりかけていた彼にとっては私と出会ったことが幸運であって、それから後は全くの彼の厚意に他ならない。


 夢の中の私であれば、この俊藍を信じようとしただろうか。

 彼の言葉を素直に受け入れて、従順に彼を愛して、彼のために生きようとしただろうか。


 私には無理だ。


 どうやっても自分の保身が第一だし、俊藍の言葉も社長の言葉も鵜呑みには出来ない。

 だってさー、あの人たち物凄く自信たっぷりに口開くんだけど、いまいち説得力ないじゃない?

 隠してること多すぎるし、信用しきれないっていうか。

 愛とか希望でお腹は膨れないし、命も助からない。

 

 こんなだから社長に見放されるのか。

 納得できるような、出来ないような。でもあの城に戻ったら今度はどうなるか分かんないんだよねぇ。

 うまい立ち回りもお世辞もおべっかも使えない小娘に何ができるんだか。


 あ、そういえば、私コンビニでおかかのおにぎりも買ってたよね?

 ビールは飲んだ覚えあるけど、おかかのおにぎりってどうなったんだろう。


 

 焚き火に小枝を放り込みながらとりとめのないことを考えていたはずなんだけど、いつのまにかダイモンの毛皮の暖かさに負けて寝ていたらしい。


 翌朝、俊藍に頬を優しく撫でられて起きる羽目になった。

 朝ごはんの用意をしていたら、ふいに俊藍が雑穀見ながら呟いた。


「お前の持っていた三角の包み、開いてみたら食べ物だったがあれはどういうものだったんだ?」


 食べてみたら旨かったので、近くの村人たちにも分けてやったがあの三角の正体は分からずじまいだった、と。


 ……そうですか。あなたが食べてくれていましたか。


 あれはお米というやつで作った伝統食で、と詳しく説明しているうちに、興味津津に私の話を聞くこの人に、落ち着いて生活できるようになったらおにぎりを作って食べさせてあげたい気分になった。


 鰹節なんてなさそうだから、まずあのカツオに似た魚で鰹節作るところから始めるべきだろう。

 何年先になるのかわかんない壮大な計画だわ。


 

 そんなことを考えていたから、私は後々まで不可思議な夢のことなんかすっかりと忘れていた。

 あの夢に、私の将来全部がかかっていたことなんて知る術もなくて。



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