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誰かと私
ああ、時間がない。
もっと、もっと。
私はいつの間にか、今まで見たこともないような小難しい本を片手に猛勉強をしている。
それは、簿記から秘書検定、英語、フランス語から中国語、果ては料理の指南書まで。
ありとあらゆる勉強をしている。
昼間は秘書として働き、夜は遅くまでずっと勉強だ。
全てあの人のため。
(あの人?)
あの日、車に轢かれそうになった私は、あの人に腕を引かれて九死に一生を得た。
礼を言い募る私に、あの人は私を暖かく抱き締めてくれた。
それから、いつの間にか私のことを調べ上げたらしく、自分の秘書として働かないかと言ってくれた。
自分の可能性を試すチャンスだと思った。
だから、一も二もなくあの人の手を掴んだ。
勉強も、お洒落も、全部上手くやってみせる。
だって私は、選ばれたのだから。
あの人の目に留まるように。