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とりかえっこ漫遊記  作者: ふとん
29/209

美人と料理

「お口にあうかどうか…」


 はにかみながら超美人が手ずからよそってくれたスープに誰が文句をつけようか。


 私はもちろん超笑顔で受け取りました。何か?


 買い物から白ひげさんのお店に戻ったら、金髪長身の小麦色肌美人が出迎えてくださいました。

 主に俊藍に向けて、ものすごい礼を払ってたけど、私にもちゃんと笑顔でごあいさつしてくれてさぁ。どっかの社長も狼も見習ってほしいよね。

 ついついデレデレしてたら俊藍に睨まれた。理不尽だ! 美人は一人占めしたらいけないと思うの!


 それで私のお腹が鳴ったものだから、性格も超出来た超美人はよろしければ、と控え目かつにこやかに遅いお昼御飯を作ってくださったわけですよ! 素敵!

 ミリアントさん達もお昼まだだっていうことで、お店の奥の部屋のダイニングで四人テーブルを囲んでいます。


 根菜やお肉をぐつぐつ煮た具沢山スープにお米とか麦とかそういう雑穀混ぜたおかゆとサラダと鳥の香草焼き。香草焼きは残り物で申し訳ございませんと断りいれられたけど、とんでもございません! タレの味が染みておいしいです。幸せだ…。

 今更なんだけど、こちらの料理って西洋式のパン食なんだと思っていたんだけど、それってお貴族さま専用らしくて庶民はこういう雑穀とか、ナンみたいなパンが一般的なんだって。一気にここで暮らしていける気になりました。日本人はご飯が一番だと思うの。

 そのうち味噌とか納豆とかに出会えないかな。落ち着いたらまず食材探しだな。うん。


「気に入っていただけて光栄ですわ」


 この金髪美人が作ったと思うだけで、庶民料理も高級フルコースになった気分です。

 お名前をカリアーツァ・キョウニン・クワラントさんとおっしゃって、この世界でも長身の部類に入る私といい勝負の長身なんですが出るところは出てるナイスバディです。簡素なチャリム姿でも隠しきれませんよこの美貌。首の後ろにひっつめられてるけど腰ぐらいありそうな金髪は日の光に当たると透けてキラキラするし、同じ金髪の長いまつげはガーネットみたいな瞳に美しい影を作るし、小麦色の肌はそりゃあもうどんなお手入れしてるんですかというほどお美しい限りです。

 この方こそ、立てば芍薬座れば牡丹、歩く姿は百合のよう。

 クリスさんといい、銭湯で会ったお姉さんといい、眼福眼福。


 気安くカリアとお呼びくださいと微笑まれた私は幸せ者だ。そこらへん歩いている人捕まえて自慢したい気分。


「ミリアントさんは幸せ者ですね。毎日このお料理を?」


 香草焼きの残りを狙って箸(この国ではお箸が一般的なんだそうで)を構えながらのんびり食べてるように見える白ひげのミリアントさんを見遣った。このミリアントさん、箸の運びはのんびりなくせにえげつない早さで出された料理を平らげているのだ。スープもおかゆも既に三杯目。あの人ひょろひょろしてて威圧感ないけど長身だから手も大きくて木のどんぶりが小さく見えるけど、私の持ってるどんぶりの1.5倍はあるよ。油断ならない。


「まぁね。僕って幸せ者だよね」


 悪びれないこの人結構好きかもしれない。でもミリアントさんの魔の手が伸びる前に香草焼きの残りはもらった! 勝ち取った食べ物ってどうしてこんなに美味しいんだろう。


「これも食べるか?」


 隣の俊藍が自分に取り分けられたはずの香草焼きを差し出してくる。肉食のくせに肉を食べないでどうするつもりだ。


「遠慮せず俊藍が食べてください。ぜひ」


「……どうして俺のは受け取らない」


 あなたが肉食だからです。優しさだようん。


「あの……」


 茶番の合間を狙ったようにカリアーツァさんは俊藍に呼びかけたみたいだけど、どうにも呼びにそう。

 まぁ、今更秘密が増えたところで探ろうとも思いませんから。


「ヨーコさまのお体はまだ本調子ではないように思われます。本当に早日この街を発ってしまわれるのですか?」


 俊藍に魔女のところへ行って欲しくないみたいですねカリアさん。美人にダシに使われるなら本望です。

 実際、私はあんまり調子は良くない。油断すると熱が出るかも。


「彼女を煩わせるわけにはいかないからな」


と、俊藍は私を見てくる。えええええ何その私のせいみたいな! いや捕まってたけどね! それは不可抗力だと思うんだよ!

 助けを求めるようにカリアさんを見たら、彼女は困ったみたいに微笑んでくれた。

 一気に厄介者だわ私。

 

「あの、私もあんまり調子良くないし、やっぱりこの街にしばらく居て、何なら私一人で魔女のところへ行きますから」


 その間に仕事も探さないとなぁ。歩く十八禁ことウィリアムさんにもらったお金じゃやっぱり足りなくなる。

 放り出されたら、そりゃ困るんだけど…


「駄目だ」


 有無を言わせない声で、俊藍は私を睨んだ。

 思わず彼を見上げると、安心させるように俊藍は肯く。


「お前を一人で行かせたりしない。俺が無事に送り届けてやる」


 見透かされた気分だ。


 俊藍は、どうして私の甘えた心を見抜いてしまうんだろう。 


 

 食事が終わって、すぐにカリアさんが片づけを始めたので、私は手伝いを買って出た。

 この東国の一般的な台所は、石を積んで作ってあるかまどだ。食器棚は備えてあるものの、洗い場は石造りだけど井戸から水を汲んでこなきゃならない。お湯なんか出ないし、井戸から汲んでこなきゃならない水は貴重だ。

 覚えないといけないことはまだ沢山ある。

 私はカリアさんが洗った食器や鍋を拭きながら、あとで誰かに聞こうと使い方のわからない料理器具を見定めていた。


「―――あなたがどういうおつもりかは存じ上げませんが」


 優しい声で、でもカリアさんはこちらを向かない。


「あの方には、あなたの望みを叶えることは出来ません」


 顔を上げて、カリアさんの美しい横顔を見つめた。けれど彼女はこちらを見ない。


「くれぐれも、あの方の優しさに付けこむような真似をなさいませんよう」


 すぐに返せと叫ばない。

 俊藍の望みを叶えようとして傷つくことも厭わない。


 ああ。


 なんて強くて素敵な人。


 私にはマネなんか出来ない。


「すぐに」


 私の声に、カリアさんは思わずと言ったようにこちらを向く。


「すぐに、返します。あなた方の元へ」


 ご飯は美味しかった。彼女は美人だ。それでいい。


「でも、あと少しだけ」


 帰る場所がある人を、いつまでも留められる訳じゃない。

 不安で、不安で仕方ない。

 竦む足を叱咤する。

 

 鎮まれ、弱い、弱い私。


「俊藍は、恩人なんです」


 彼に返せるのは感謝だけだから。


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