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とりかえっこ漫遊記  作者: ふとん
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髪紐と定食屋

 辛くなったらいつでも帰ってこい。


 そんな親馬鹿みたいなセリフを残して、社長は俊藍に一礼して通信を切った。

 私は出来そこないの娘か。

 心おきなく家出してやる。

 城に置きっぱなしの私の荷物はちゃんと保管してくれるっていうし、気が向いたらいつか帰ってあげないこともない。

 クリスさんによろしく言ってくれって頼んだら微妙な顔されたんだけど。つくづく心証悪い社長だ。


 唇かんでたら、俊藍がやめろと言うように頭を撫でてきた。

 そういやこっちにも親父が居たんだ。いっそパパって呼んでやろうかな。


 ギルドから出たら買い物に行こうと俊藍が言いだした。

 本当に娘の機嫌とるパパだな。

 私がガキ臭いっていうのもあるんだろうけどさー。


「私、もらったお金がギルドに預けてあるんです」


 どうにか出せるようにすれば、私の分は幾らかでも払えそうだ。

 すると、俊藍が今度は受付のお姉さんに(このお姉さん、俊藍の美形顔見ても営業スマイルだったよ。プロだ)言って確認作業をしてくれた。石版に登録されてるから、木板失くしても私以外は使えないから大丈夫なんだってさ。すごいなー。


「生活が落ち着いて、お金が溜まったら北国ってところに一度行ってみたい」


 だってさ、こんな技術があふれてるっていうんだよ?


 異世界との交流手段ぐらいは調べられるかもしれない。


 手続きを終えて、ギルドのガラス戸を開けてくれながら(変なところで紳士だ)俊藍は微妙な顔をした。


「お前、一人で?」


「そりゃあそうですよ」


 他に誰が一緒に行ってくれると言うんだ。

 そう言ったら、俊藍は少し目を細めて、私に網笠を被せた。


 俊藍は、魔女のところへ連れて行ってくれるとは言ったが、そこから先の具体的なことは何も言わない。


 まるで、その先の約束は出来ないというように。


 

 きっと、彼は彼の事情があって、ちゃんと帰る場所があるのだ。



(羨ましいな)


 今の私に、この世界で帰りたい場所なんてものはない。

 社長の居るお城は人心荒廃、術中権謀渦巻く伏魔殿みたいなもので、必要なきゃ寄り付きたくない場所だ。いい思い出はクリスさんだけだしね。

 私が今回さらわれたのだって、大方、社長の周りの陰謀のせいだ。絶対。だって、この世界に来て三日で私がどう他人の恨み買うんですか。


 俊藍の事情がどういうものか正直興味はないけど、それが彼にとって辛いものだろうが、彼の人生に他ならない。


(貞操がどうのって言ってたけど、帰る場所があるなら、私のこともすぐ忘れるだろう)


 俊藍が私を大事にしてくれるのは、拾った捨て猫に愛情が湧くのと一緒だ。

 他の家に預けたら、それでおしまい。

 時々、気にはなるだろうけど、何年か経てば「ああ、あんな猫いたな」ぐらいなもの。

 拾われた猫の方も、拾ってくれたことに感謝すればいい。


 私はギルドで少しだけ使えるようにお金を出してきた。小出しにしてれば旅ぐらい出来るだろう。何せ4人家族ひと月分だ。

 自分で稼いだお金じゃないけど、せめてものお礼に俊藍に髪留めを買うことにした。


 露店がずらっと並んだ通りに連れて行ってもらって、そこで見つけた飾り紐(ゴムみたいなものは無いらしい)をその場に俊藍を立たせて色を合わせてみる。

 お店のおじさんに笑われて居心地悪そうにしていたけど、俊藍は苦笑しながら付き合ってくれた。

 見た目がいいから何でも似合うけど、やっぱり俊藍のイメージは青だった。

 海と空みたいな明るい色じゃなくて、森の奥にあるような深い湖のような冴えた蒼。

 

 細かく編み込まれた紐は銀貨二つって言われたけど、これから何が入り用になるかわかんないから、銀貨一つにまけるよう交渉してやった。おじさん泣きそうだったな。


 こちらの世界のお金は奇麗だ。麻雀の点数棒ぐらいで(麻雀やらないから正しい名前は知らない)細くて丸くて、お金同士を鳴らすと澄んだ音がする。大事なお金持ってる感じ。

 銅貨で子供みたいなことをやっていたら、早く仕舞えと俊藍が私の頭をふわりと撫でた。子供みたいなことやってたから、甘んじておこう。

 

 お金をしまって、空を見上げたらもう太陽が高い。お昼ぐらいなのかな。

 俊藍が屋台で食事って私を連れて、定食屋さんみたいなところに入った。


 まだ早いのか人がまばらだったから、乾かしっぱなしの俊藍の髪を買った飾り紐で結ってあげることにした。

 まぁ、結うって言ってもそんな複雑なことは出来ないからひっつめるだけなんだけどね。

 それが、まぁ、俊藍の髪の無駄に奇麗なこと。

 髪を結うのが私でものすごく申し訳ないんだけど、頭の後ろで結ってあげたら俊藍は満足そうに笑った。

 そんな嬉しそうにしないでよ。たかが髪紐だよ。


 そうこうしてるうちに、がやがやと人が多くなってきたなって思ったら、


「あ」


 さりげなーく視線をそらせた。

 だってさ、だってさ、


「……奴等か」

 

 低く俊藍が呟いて、横目を向けた先にはチャラチャラした着物着た強面のお兄ちゃん達。

 私さらったチンピラ共がぞろぞろ入ってくるじゃない!


 私って、どうしてこう運悪いの…。




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