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とりかえっこ漫遊記  作者: ふとん
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きんぴらごぼうとエスパー

 それから、クリスさんは私を時々連れ出してくれるようになった。

 休暇を終えたらしい悪魔は頻繁に城に出かけるようになったので、私はそれに付き合って連れていかれるようになってしまったから、必ず社長のところに預けられるようになってしまった。託児所か。


 でも、


「あ、ここ間違えてる」


 たまたま覗き込んだ書類の文字間違いを悪戯半分に指摘したら、社長に驚かれた。


「……これは、西国語だぞ」


 今や四か国語操るトリリンガルですが何か。


 それからたまに、書類整理を命じられるようになってしまった。まぁ、暇だし働くけどさぁ。

 そんな感じで仕事が早く片付くので、社長も私と一緒に部屋から抜け出すようになってしまった。クリスさんは社長の監視役兼護衛でもあるらしいから、仕方ないっちゃないんだけど。



「……今度はまた、大人数ですね」


 有害銀髪の嫌がらせにはなるからヨシとする。

 大人三人の雁首揃えて北の塔に遊びに行ったら、相変わらずの銀髪は長い溜息をついた。


「帰ってください」


「お昼食べたらね」


 そうしてさらに嫌な顔をする有害銀髪を眺めながらおにぎりを頬張る。

 牢屋でくさい飯を優雅に食べている銀髪に、


「欲しい?」


「いりません」


 おにぎりを差し出すとご機嫌が更に急降下。

 ああ、楽しい。 

 

「ハイラントは、意外と短気だったのか」


 社長の呟きにも不愉快そうにするから、大人数で来て良かった。


「もう来ないと思っていましたよ」


 言われて、ちょっと驚く。

 一か月ほど来なかったことをちょっとは気にしてたのか。


「来て嬉しいでしょう?」


「二度と、来ないでください」


 怒られた。冗談通じないなぁもう。

 

「あなたのお兄さんにも、あなたに会いに来るなって言われましたよ」


「兄にまで会ったのですか」


 もうこれ以上ないというほど呆れた顔で有害銀髪で私を見てくる。失礼な。


「ええ、まぁ」


「どうせ、城にも来るなと言われたのでしょう」


 有害のくせに貴様エスパーなのか。


「そういう人ですからね。目障りなものは目に入れたくない、少しでも自分の気分を害するものは特に」


「……うわーそっくり」


 呟いたら蛇みたいに睨まれた。私は蛙じゃありません。

 でも、溜息をついたあと、有害銀髪は薄く笑う。

 お兄さん、目が笑っていませんよ。


「あの人が嫌がるのなら、あなたがここに来るのも悪いことではありませんね」


 うわ、性格悪い。

……あれ、でもこの嫌がらせどこかで聞いたことあるような。


「お兄さん、嫌いなんですか」


 普通に話すにはいいお兄さんなんだけどな。

 有害銀髪はふんと鼻で笑って口を歪めた。


「嫌いというよりも、優秀な兄に比べられて育ったものでして。せっかく北国に骨を埋めようとしていた私を呼び戻したのも兄です。どうやら、陛下の補佐として使いたがっていたようですがね……」


 それが嫌で王太子派についてやりました、とこの人も何の追い目もなく言ってくれる。性格悪い、悪いと思ってたけど、相当ですね。

 

 じゃあ、


「北城さんも王太子派ってやつなんですか?」


「そうなるらしい」


 社長は料理長お手製のおにぎりを遠慮なく食べながら答えてくれた。ちょっとは遠慮してよ。そのきんぴらごぼうの入ったおにぎりそれで最後なんだぞ。

 何でも、王太子派というのは迷い人の血が入った一族から出てきた王子様を王様に! ていう一派らしくて、前王陛下の後妻の息子らしい。えっと、俊藍の腹違いの弟?

 うわぁ、ぐだぐだの泥沼だ。

 嫌な顔した私に、有害銀髪は「何を他人事のように」と目を細める。


「トーレアリング宰相の家は迷い人の血が入っていないことから、優秀ながら冷遇され続けた家です。純血淘汰の時代には一族を滅ぼされそうにもなっていて、一族再興のためにようやく王族の元に送りこまれたのが、あなたのご夫君です」


 あいつが?


「優秀な方ですからね」と有害銀髪は呟いて、


「ですが、あの方は王太子派についた。誰もが彼の判断を疑い、暗愚と罵りましたが、王太子派はこれ幸いと彼を重用し、彼は宰相という地位を手に入れたのですよ」


 そうして迷い人の一番濃い血を受け継ぐ北城一族の子孫を、こちらの世界に呼び出すことになった。

 北城一族の力を確固たるものにするために。


 で、


「巻き込まれたのが私ですか……」


 マジでとばっちりじゃないか。

 でも、と思う。


 あいつは、言ったはずだ。

 迷い人は嫌いだって。

 迷い人のせいで国が滅びそうになったから、居てはいけないと。

 

 だったら、どうして呼び出したりしたんだろう。

 止める機会なんて、いくらでもあったはずなのに。


「まぁ、あなたが出てきた時には驚きましたよ」


 まさか。

 見上げた銀髪はあっさりと頷いた。


「ええ。私も魔術師としてあなた達を呼び出す儀式に参加していましたから」


 お前もかブルータス。


 私は、また会いに来ると嫌がる銀髪に一方的に約束した。



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