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ありそうでないボーイミーツガール 前編

大半の方にとっては初めまして。通神礌です。

本当はもう少し先に出すつもりだったのですが、出来ちゃったので書いちゃいました(笑)。

 握っているのは一本の割り箸。

 何の変哲のない、どこにでも売られている市販の割り箸だ。

 ただ一つ違う所があるとすれば、

 その割り箸の先に、真っ赤な油性マジックで塗られたであろう部分が存在していたというだけだ。

 その一本の割り箸が、自称普通の高校生改め――三笠之原龍次(みかさのはらりゅうじ)の災難の始まりだった。

「はいっ、このクラスの学級委員長は三笠之原に決定しました~」

「う、嘘……だろ……?」

 耳慣れない先生の呑気な声と聞き慣れた自分の驚愕の声音で、クラスメイトが一斉に安堵の溜息を漏らす。お前らの立場が羨ましい限りだよ。

 普段なら自分もそこにいるハズなのに――。

「――どこクラスに、学級委員長をくじ引きで決める所があるんだよっ!」

「は~い、ここでーっす」

 そうでしょうね。だって貴女に向かって言ったのですから。

 因みに独り言に答えてくれた人こそ、我がクラスの担任――(いおり)()()先生。綿菓子のような甘い声音に艶やかな亜麻色の長髪、さらに持ち前の童顔も相成って十代後半にしか見えないのだが、これでも優秀な大学を出ている立派な社会人……らしい。

「だって、こうやって決めたらみんな公平でしょ?」

「そ、それはそうかもしれないですけど……」

 まるで疑いを知らない無垢な子供のような目でこっちを見る先生。確かにそれは正論のように聞えは良いが、くじ運の善し悪しが存在することを全く考慮に入れてないようにも思えて仕方ない。だがそんなことを言うと、本当の公平なんか存在しないんじゃないかという議論が脳内で展開してしまいそうになるので、ここらで止めておくことにする――。

『はっはっは、良かったじゃないか! 新入生になって早々学級委員長なんて重役に就いた親友を誇らしく思うぞ、龍次』

「うっさい、イキナリ高笑いすんな! 魁」

――なぜなら、背後で(・・・)爽やかな笑い声であげる男――城ヶ(じょうがさき)(かい)があまりにも鬱陶しかったからだ。整えられた黒髪に時代錯誤なビン底丸眼鏡、暑苦しさを感じさせながらも爽やかさを失わない容姿というアンバランスな外見の持ち主だが、中身は完全に容姿に伴っている。夏に一緒にいなくてはいけないなんて考えると憂鬱になる。

そもそもコイツと一緒にいなくてはいけないと嘆かなければいけないのは、何を隠そうこの男が――背後霊だからだ。

 一か月ほど前にコイツの家族が卒業旅行に出かけたのはいいのだが、その帰り道に飛び出してきた対向車に衝突して皆揃って事故死。親友の訃報に悲しんでいた所に『まだまだ青春を謳歌してないぞー』という爽やかな未練のもと、就職氷河期何のそのと言わんばかりに今月無事背後霊に就職した。

「それに、……俺はまだやるなんて一言も言って」

『何かもう決まっているみたいだぞ?』

はい?

 心の中で素っ頓狂な声をあげながら魁が指差した方を振り返ると、菴先生が、まるで当然のように黒板に学級委員長――三笠之原龍次、とでっかい丸文字で書いている光景が目に入った。

「何やってるんですか、先生!?」

「ん~? 何って、黒板に三笠之原くんの名前を書いただけだよー?」

「だから、そんな大事なものを王様ゲームの使い回しみたいなくじで決めないでくださいよ!」

「使い回しだよ~」

 ……そうだと思いましたとも、ええ。

「だいじょ~ぶ、先生、三笠之原くんのこと信じてるから!」

「何の根拠のないものを、そんな自信満々に仰られましても……」

 まるで某洋菓子店の店主みたいな表情と台詞の前とは裏腹に、自分の意見を曲げる気が全く見えない先生を前に、大きな溜息をつくしかなかった。

 学級委員長になってからの仕事は、予想よりもハードな内容から始まった。

「不登校?」

「そう、不登校」

 入学式(学級委員長への不名誉な就任)から三日、何の予定もなく帰ろうとしていたら先生からお呼び出しがかかり、渋々職員室へ向かったところで一枚のプリントを渡された。

 そのプリントは――住所が書かれた名簿(つい今日貰った)。

 しかし、そのプリントにも、真っ赤なマジックででかでかとマークされている部分が存在する。一人の人物を指しているらしい。

 中島一姫。

 指している人物は、どうやらこの人のようだ。

「中島……」

「そー、中島――さん? くん? う~ん、どっちか分かんないけどその子」

「何ですかその曖昧な解答」

「え~? だって、確かめてないんだもん。今日まで一日も来てないから」

 綿菓子のようなふわふわした声に合わせて左右に小首を傾げる先生。幼い顔立ちのせいか妙に可愛らしいけど、今はそんなことに思考を割いている暇はないので話を元に戻す。

「それで、この中島って人がどうしたんですか?」

「この子をね、学校に連れて来て欲しいの」

 思考が止まった。

「…………えっと、どういうことですか?」

 しばらくして、先生に詳細を要求して聞いた話をまとめると、


 明日から一週間後に、集合写真を撮る予定がある。

 この写真は三年後に作られる卒業アルバムに載せる、必須な写真の一つであり、皆で撮る数少ない写真なのだという。

 本来なら、入学式の次の日(つまり昨日)に全てのクラスを取り終える予定だったんだけど、例の中島が欠席していたことによってウチのクラスだけ集合写真を撮ってないのだ。どうやら先生が『全員で撮らなきゃ意味がないから』と言ってボイコットしたところ、写真を撮る人に交渉した結果、今日から8日まで日時を伸ばしてもらったという。

 だがその日までに写真を撮る意向を固めなかった場合、ウチのクラスだけ集合写真を撮ってもらえない――つまり、卒業アルバムの丸々一ページ空白ということになってしまう。


 という風になる。

 そこまで聞いた途端、頭が痛くなってきた。

「先生、何してるんですか?」

 この人は、妥協案というものの存在を知らないのだろうか?

「だってぇ、先生みんなと写真に映りたいし、それに――」

 先生はそこで言葉を切ると、遠い目で茜色に染まった校庭を見ながら。

「――たった一人でも欠けちゃったら、それはクラスじゃないと先生は思うの」

 生徒は公平に扱わないとね、と付け加えてから椅子をこちらに向き直る先生の目は、つい三日前に見たあの目と同じ目をしていた。

 この先生も、ちゃんと生徒の事を思ってんだなぁ……。

「でも何で……俺がやらなきゃいけないんですか? 先生が行けばいいじゃないですか」

「ん~。先生、三笠之原くんの学級委員長の実力を見てみたいし」

 何だよその『学級委員長の実力』って?

「それに――」

「それに?」

「――先生、今日飲み会あるから~」

 前言撤回。この人ロクに生徒のこと考えてねぇ。

「今は飲み会よりも写真の方が優先でしょう。――というか……俺が行くよりも先生が行った方が簡単だし、それらしい理由だってあるでしょう」

「でも先生、中島さん家で虐待とか起こってたら止められる自信がないし……」

「むしろこっちの方が自信がないですよ!」

「そこは三笠之原くんのみらくるぱわーで」

「ないですよそんな得体の知れないもの!?」

「便利だねぇ~。一家に一台! 三笠之原くん、みたいな?」

「何ですかその物置みたいな宣伝文句!?」

 慣れないツッコミのしすぎで思わず息が切れる。この人、おちょくってるんじゃなかろうか?

「じゃあ、そういうことで~。先生時間だから行くね」

「あっ、待って――」

 そう言って腕時計を見ながら立ち上がり職員室から去っていく菴女史を、右手をのばしたまんま呆然と眺めることしかできなかった。

 そりゃないよ、先生。

 ああ言う頼まれ方をしたものの、受けてしまったからには嫌でもやらなければいけないと思ってしまうのは、お人好し故なのか。

『はっはっは、いいじゃないか。頼られてる証拠だぞ』

「うっさい。お前は少し黙ってろ」

 夕陽もすっかり暮れ込み、憂鬱な空気とは対照の爽やかな背後霊に当たる今この頃より空しいことはない。

『でも良かったじゃないか、その中島とやらの住所が俺達の帰り道の途中にあって』

「まぁな……」

 魁に言われて、持っている名簿を眺める。確かにこの住所なら帰路のルートから外れないし、馴染みのある場所だから道にも迷う心配もない。

「――しかもよく見たら、……俺ん家のすぐ近くじゃないか」

『む……? 確かに言われてみれば』

 さらに好都合じゃないか! と爽やかな高笑いをする悪友背後霊と共に足を自宅に向かわせる。

『…………なぁ、龍次よ』

「なんだ?」

『この中島とやらの名前は何と読むんだろうな?』

 魁に言われてもう一度マークされた所を眺める。

 中島一姫。

「……確かに」

 言われてみればそうだ。ぱっと見て何て読めばいいのか分からない。実際、菴先生も分からなかったみたいだし。

「うーん、……『ひとひめ』かなぁ……」

『それだと妙にゴロが悪くないか?』

「じゃあ他の読み方だと……」

『――『いつき』とか』

「火の玉をジャンピングサーブする人じゃないんだから。……むしろガチレズ?」

『そもそも男か女かも分からんには何とも言えんな』

「そうだね」

 自分から振っといてとか今のボケはスルーかい、という文句を胸の中に押し込めてふと足を止める。

「……着いたぞ」

そう言って右を向いた先には、『中島』と書かれた真新しいプレートが貼られた立派な一軒家が確認できる。プリントを内容通りにいくと、ここが『中島一姫』の家だ。

『どっちなんだろうな?』

「どっちでもいいよ」

 無事に学校に連れ出せれば、な。

「……じゃあ、行くか」

 その一声と同時に一般的な灰色の門を開け、中に入る。意外に広い庭はきちんと整備されており、至る所に色とりどりの野菜が栽培されている。園芸が趣味なのかな?

 数秒の時間を浪費して門からドアまでの距離を埋め、インターフォンを押す。

 お決まりの電子音から数秒後、家から忙しない足音とこの家の主である人物の声が鼓膜に飛び込む。


 そしてそれが、自称普通の高校生こと三笠之原龍次の災難の始まりである。


……あまり上手ではないのは重々承知の上です(泣)。

しかも書いたはいいのですが、終わり方を全く考えていません。なので色々と問題が起こったり投稿が不規則になることもあるかもしれませんので、それを承知の上で読んで頂けると嬉しく思います。

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