第6.5話:覚悟の口づけ
「全軍、突撃せよ!」
エドワード王子の怒号が響き、騎士たちの魔力が大気を震わせる。
だが、アルベルトは彼らを見向きもせず、ただ私だけをその瞳に映していた。
「……エルゼ」
彼の手が私の後頭部を優しく、けれど逃がさないという強い意志を込めて引き寄せた。
周囲には、彼から溢れ出した圧倒的な冷気が渦巻き、物理的な障壁となって私たちを外界から切り離す。吹雪の結界の中、世界には私たち二人しかいないような錯覚に陥った。
「アルベルト……」
「もし私が敗れれば、お前は無理やり連れて行かれるだろう。……だが、そんなことは万に一つも起こさせない。私はお前を離さない。神がそれを望んだとしても、私は神すら凍らせてやる」
彼の言葉は甘い囁きではなく、重い誓いだった。
アルベルトは私の顎を指先で持ち上げ、強引に唇を重ねた。
「ん……っ、ふ……」
今度の口づけは、これまでで最も深く、烈しかった。
舌が絡み合い、互いの呼気が混ざり合う。彼の口内から伝わる冷たさが、私の内側から湧き上がる浄化の熱とぶつかり、火花が散るような衝撃が全身を駆け抜ける。
それは、単なる愛の行為ではない。
私の光を、彼の魔力に直接流し込む「契約」の儀式のようだった。
「はぁ……っ、……愛している、エルゼ。お前の温もりを、誰にも、一滴たりとも渡したくない」
唇を離したアルベルトの瞳は、以前のような絶望の青ではなく、私の光を吸い込んだ神秘的な瑠璃色に輝いていた。
彼の腕にある氷の鱗がさらに溶け、剥がれ落ちたそこから、圧倒的な魔力が立ち昇る。
「私も……愛しています。アルベルト、あなたのいない世界なんて、私には必要ありません」
私は彼の首に腕を回し、もう一度だけ、短くその唇に触れた。
それが、彼に「最強」の力を与える最後の一押しとなった。
アルベルトは私を背後に隠すように守り、ゆっくりと敵軍へと向き直った。
その背中からは、もはや怪物のものではない、威厳に満ちた「真の王」の覇気が溢れている。
「――消えろ。私の庭を汚す羽虫ども」
彼が指を鳴らした瞬間、結界の外側で、騎士たちの叫び声すら凍りつく絶望的なまでの氷嵐が吹き荒れた。




