第5話:溶ける氷と、氷の贈り物
「……まだ眠いか? エルゼ」
翌朝、カーテンの隙間から差し込む白い光に目を覚ますと、すぐ目の前にアルベルトの端正な顔があった。昨夜の情事の名残か、彼の銀髪は乱れ、その瞳はとろけるような熱を帯びている。
「アルベルト……。おはようございます」
「……呼び捨てでいいと言っただろう」
彼は私の腰を引き寄せ、逃げられないように腕の中に閉じ込めた。
驚いたことに、彼の胸元の氷の鱗はさらに剥がれ落ち、温かな肌が直接私の体に触れている。私の「浄化の力」は、彼と肌を重ねることでより強く作用するようだった。
「顔が赤いな。熱でもあるのか?」
「……あなたのせいです。そんなに見つめられたら……」
私が俯くと、彼は低く笑い、私の額に優しく口づけをした。
「お前が私を人間に戻していく。……このまま、お前を溶かして私の一部にしてしまいたいほどだ」
そんな甘い言葉を交わしていると、部屋の扉が控えめに叩かれた。老執事の声が響く。
「旦那様、エルゼ様。……王都より、緊急の親書が届いております。エドワード王子直々のものです」
アルベルトの表情が一瞬で凍りついた。
彼は私を離すと、寝衣のまま立ち上がり、執事から手紙を受け取った。
手紙を読んでいる彼の横顔は、再び「氷の王」の冷徹さを取り戻していく。
「……ふん、愚かな。エルゼを『聖女候補』として王宮へ呼び戻すと書いてある。お前の力が知れ渡ったようだな」
「私が、聖女……?」
「行かせるわけがないだろう。あんな薄汚い連中に、お前の指一本触れさせはしない」
アルベルトは手紙を指先から凍らせ、粉々に砕いた。
彼は私の方へ戻ってくると、膝をついて私の手を取り、その甲に誓うように唇を寄せた。
「エルゼ、今日は外へ出よう。お前に見せたいものがある」
彼に連れられて向かったのは、城の裏手にある広大な庭園だった。
そこは通常、死の冷気に包まれた枯れ木ばかりの場所。けれど、アルベルトがそっと手をかざすと、空気中の水分が結晶化し、またたく間に「氷の花」が咲き乱れた。
「これは……!」
「私の魔法は、これまでは壊すためだけに吹雪を呼んできた。だが、お前に触れてからは……こんな繊細な形を作れるようになった」
透き通るような氷の薔薇が、太陽の光を浴びて虹色に輝いている。
彼はその中の一輪を折り、私の髪に挿した。
「この庭も、この城も、そして私も。すべてお前のものだ。王都の連中が何を言ってこようと、私がこの命に代えてもお前を離さない」
彼の瞳の奥にあるのは、深い愛と、狂おしいほどの執着。
私はその視線に射抜かれ、震える指で彼の頬を撫でた。
「私も、ここから離れません。アルベルト、あなただけが私の居場所です」
二人が氷の花に囲まれて抱きしめ合う中、遠く王都の空には、不穏な暗雲が立ち込めようとしていた。




