第4話:氷解の熱と、独占欲
柔らかな天蓋の天幕が揺れている。
目が覚めると、そこはいつもの冷え切った自室ではなく、重厚な香木の香りが漂うアルベルトの寝室だった。
「……気がついたか」
耳元で響いた低く甘い声に、心臓が跳ねる。
横を向くと、そこにはアルベルトがいた。彼は服を崩し、肘をついて私を見下ろしている。驚いたのは、その肌だ。昨夜私の光が触れた場所――頬から首筋にかけて、氷の鱗が消え、陶器のような白い素肌が露出していた。
「アルベルト様……。お怪我は? それに、お肌が……」
「お前のせいだ、エルゼ。……いや、お前のおかげか」
彼の手が、私の頬を包み込む。昨日のような刺す冷たさはなく、心地よいひんやりとした熱が伝わってくる。
「バルトを追い出した後、お前は私の腕の中で眠り続けた。……あまりに無防備で、このまま食い殺してしまおうかと何度も思ったほどだ」
彼の指先が、私の唇をなぞる。その視線は、獲物を狙う獣のように鋭く、それでいて溺れるような情熱を孕んでいた。
「あ……。あの、お恥ずかしいところを……」
「恥じることはない。むしろ、私以外の男にあんな光を見せるな。……お前を王都へ返すつもりは毛頭なくなった」
アルベルトはゆっくりと、私の上に覆いかぶさるように身体を寄せた。
彼の長い銀髪が私の肩にこぼれ、ひんやりとした髪の感触と、彼自身の体温が混ざり合う。
「アルベルト……様……?」
「……アルベルト、と呼べ。様はいらない。私は今、公爵としてではなく、一人の男としてお前を求めている」
逃げ場を塞ぐように、彼の手が私の髪の中に潜り込む。
そのまま、抗う隙も与えずに、彼は私の唇を奪った。
「ん……っ……」
氷のように冷たい口づけを想像していた。けれど、実際に触れた彼の唇は、驚くほど熱かった。
深くて、執拗な、独占欲に満ちたキス。
彼が長年溜め込んできた孤独と、私への渇望が、そのひとつひとつの動きから伝わってくる。
「はぁ……っ、エルゼ。お前の体温が……私を狂わせる。もっと、触れてくれ。お前のその不思議な力で、私をもっと、溶かしてほしい……」
彼は私の首筋に顔を埋め、子供のように縋りついた。
かつての「凍てつく怪物」の面影はない。そこにいるのは、愛に飢え、私を離したくないと願う一人の不器用な男だった。
私は、彼の広い背中にそっと手を回した。
まだ少しだけ残る氷の鱗が指に触れる。けれど、それが愛おしくてたまらない。
「どこへも行きません……。アルベルト、あなたのそばにずっといます。私が、あなたを温め続けますから」
私がそう囁くと、彼は顔を上げ、蕩けるような笑みを浮かべた。
それは、世界中のどんな宝石よりも美しく、残酷なほどに甘い微笑みだった。
「……逃がさない。お前が私を選んだのだからな。これからは、私の毒もお前の光も、すべて混ぜ合わせて……二人で地獄まで堕ちよう」
再び重なる唇。
窓の外の猛吹雪は止まない。けれど、この部屋の中だけは、春よりも熱い情熱の炎が燃え上がっていた。




