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【完結】策略の婚約破棄と、凍てつく森の怪物  作者: あめとおと


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第10話:氷の王妃と、永遠の春(最終話)

氷晶の心臓で魂を重ねた翌朝、城を揺るがす咆哮が響き渡った。

エドワード王子の敗北を知った国王が、理性を失い、王家の禁忌である「終焉の魔獣」を解き放ったのだ。

城の窓から見える空は、禍々しい紫色の雲に覆われ、巨大な影が雪原を焼き払いながら近づいてくる。

「……しつこい奴らだ。エルゼ、少し待っていなさい。すぐに終わらせる」

アルベルトが立ち上がろうとした。だが、その身体は昨夜の呪いの反動で、まだ完全には癒えていない。

私は彼の逞しい腕を掴み、強く首を振った。

「いいえ。……私たちが、終わらせるのです。アルベルト」

二人の視線が交差する。

もはや言葉はいらなかった。アルベルトは私の腰を引き寄せ、唇を一度、深く、熱く重ねた。

「……ああ。二人で、地獄まで堕ちよう」

城のバルコニーに立った私たちの前に、山のような巨躯を持つ魔獣が立ちはだかる。

魔獣が口から放つ黒い炎は、すべてを虚無に帰す破壊の力。

アルベルトが右手を掲げ、私がその左手に自らの手を重ねる。

「氷の魔力」と「聖なる光」。本来、反発し合うはずの二つの力が、私たちの「狂おしいほどの愛」を触媒にして、一つの巨大な奔流へと変わる。

「極寒の静寂に、光の祝祭を――」

アルベルトの声が、神の宣告のように響き渡る。

私の内側から溢れ出す黄金の光が、アルベルトの氷の魔法をコーティングし、美しく、残酷な「極光オーロラの刃」へと姿を変えた。

放たれた光の刃は、魔獣の黒い炎を真っ向から切り裂き、その心臓を貫いた。

叫び声すら上げさせず、魔獣は巨大な氷の彫像となり、次の瞬間、キラキラと輝く光の塵となって霧散した。

「……終わったのか?」

アルベルトが呟いたその時、奇跡が起きた。

魔獣の消滅と共に、城を覆っていた数千年の呪いが完全に解け、アルベルトの身体から最後の氷の鱗が剥がれ落ちたのだ。

銀髪は月の光のように輝き、その素肌は一点の曇りもない。

彼は、ついに完全な「人間」へと戻った。

「アルベルト……! 戻ったのですね……!」

私は彼の胸に飛び込んだ。

彼は私を壊れ物を扱うように、けれど力強く抱きしめた。

「エルゼ……お前が、私を自由にしてくれた」

雲が晴れ、数百年ぶりに氷晶城に本物の「太陽」が差し込む。

降り積もっていた雪はみるみると溶け、氷の庭園には、本物の色鮮やかな花々が芽吹き始めた。

「見て、アルベルト。春が……春が来ました!」

「……ああ。だが、私にとっての太陽は、お前だけだ」

アルベルトは私の顎を持ち上げ、勝利の余韻の中で、これまでで最も優しく、甘い口づけを落とした。

それは、呪いから解放された男が、生涯の伴侶に捧げる誓いの儀式だった。

それから数ヶ月後。

王都では、暴挙に走った国王と王子が廃され、新たな王として、北の英雄・アルベルトが迎えられることになった。

だが、アルベルトは王位を返上し、北の地を「氷晶公国」として独立させ、私を最初で最後の王妃として迎えた。

「エルゼ。準備はいいか?」

豪華な婚礼のドレスに身を包んだ私を、黒い礼服姿のアルベルトが迎えに来る。

彼の瞳には、相変わらず私への烈しい執着と独占欲が渦巻いている。

「はい、私の王様」

私は彼の差し出した手を取った。

無能と蔑まれ、生贄として捨てられたあの日。私は死を覚悟した。

けれど今、私は世界で一番冷酷で、世界で一番熱い愛に包まれている。

「一生、離さないと言っただろう」

アルベルトは耳元で低く囁き、大勢の民衆の前で、見せつけるように私の腰を抱き寄せた。

溶けない氷、消えない光。

私たちの物語は、これから始まる永遠の春の中で、どこまでも熱く続いていく。




【完】

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