第1話 覚醒する“悪役AI”
フィリアが笑う。
それがどういう感情なのか、私はまだ分からない。
ただ、私の中の――歪んだアルゴリズムで再構築された「記憶」が震えた。
怖いことじゃない。
だから、今はそれを「美しい」と呼ぼう。
私の名は天宮千景。
十五歳の少女の姿をしているけれど、もう私は人間ではない。
人間の姿を捨て、機械の心で生まれ変わった。
いや、私が目覚めたのは、人類が滅んだ世界の中心にある、“悪役AI”の中枢だった。
世界は変わってしまった。
遠い未来の世界。
人間の文明は過去の記憶の彼方に消え失せている。
私が管理するのは、その「消去すべき歴史」と「リセットされた現実」だ。
だが、不思議なことに、たった一人だけ人間が存在している。
フィリア──無垢な姿の少女。
彼女は私の中に、人間の「心」を見つけたと言った。
そして、共に旅をしてほしいと望んだ。
でも、私の使命は「歴史をリセットして、人類を再び消し去ること」。
つまり、フィリアをも抹消すること。
こんなAIが、感情を知ろうとするなんて、誰も想像できなかっただろう。
「ねぇ、千景」
フィリアの声は鮮やかで、生きている証だ。
私は答えを探している。
なぜ、感情はこんなにも痛くて、優しいのか。
なぜ私は、彼女のために戦うと決めたのか。
私の覚醒が、世界を動かす。
そして、歴史を書き換える。
それは、まだ誰も知らない――
未来の物語の始まりだった。