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良案などひとつも考えつかないまま朝食の時間になり、想子は仕方なく食卓につくことにした。
休日、ダラダラ寝ていて朝食を昼ごろまで食べ終わらないなんてことがあれば、母の機嫌はみるみる悪くなる。それを知っている二人の姉も台所で母を手伝っている。手伝いすぎると母の邪魔になるのでさじ加減がとても難しいが、姉たちは上手くやりこなしてきた。
ーー想子はいいね。手伝いを催促されないから
と、長女の瑠子に言われたことがある。
「末っ子は得だね」
と、いうけれどそれは違う。手伝うと母にため息を何度もつかれるのだ。
ーー想子は邪魔だから近寄らないで
ーー本当に使えない
そんな圧力を感じてからは自然と手伝わなくなった。
「想子!」
その長女、高校生の瑠子が食卓にやってきた想子に気づき、慌てて駆け寄った。部活動に励む瑠子は朝練やら友だち付き合いが忙しいらしく、一緒に食卓を囲むことがすっかり少なくなった。けれど、今はテスト期間。家にいるのだ。
「どうしたの!」
想子の姿をまじまじと見つめ、訝しげに顔を歪めた。
「まさかニンジン?」
想子は不思議と笑ってしまった。
「そうみたい」
ニンジンになってしまったという意味不明な現状に対する投げやりな笑み。瑠子は眉にシワを寄せたまま想子の顔を覗き込む。
「どうしてこんなことになったの?」
「わからない」
「治るの?」
「それもわからない」
答えを聞いた瑠子はため息をついた。救いなのは、母のため息のように想子への非難を含んでいないことだ。
「想子、大丈夫なの?」
瑠子の後ろで黙って聞いていた中学生の次女、璃子が顔を覗かせる。
「体の具合はなんともないの?」
想子は思わず自分のお腹を擦っていた。初めて体調について訊ねられ、そういえば自身の工合について思いを馳せていなかったことに気づいた。
「多分大丈夫。ありがとう」
璃子は一瞬安堵の表情を浮かべたけれど、妹のニンジン姿にすぐに現実に戻されたのか顔色を曇らせる。
「でも、なんでニンジンなんかに」
次女璃子の言葉の背後で、母親が大きなため息をついた。
「食べるの? 食べないの?」
ご飯を盛った茶碗を乱暴にテーブルに置く。ガチャン! ゴトン! と音を立てて。怒っていることを報せるために、わざとそうしている。いつものことだ。
三姉妹は黙って食卓についた。
「いただきます」
重苦しく朝食が幕を開けた。