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余暇の過ごし方が分かりません

 あれから嘉門君と連絡先を交換して、よく電話で話すようになった。私は世話焼き気質なので、世間的にはトップスターなのに、実は自信が無くて引っ込み思案の嘉門君の面倒をみてあげることに、大変やりがいを感じている。子どもの頃は弟妹が欲しかったし、弟ができた気分だ。


 嘉門君が「構ってもらえると嬉しい」と言ってくれるのに甘えて、3日に1度くらい電話させてもらっている。今も自室のベッドでゴロゴロしながら


「嘉門君って暇な時は何をしているの?」

『家だと本を読んだり映画を見たり、後は意味もなく遠くに行っています』


 聞けば嘉門君は車の運転が好きで、よく1人でドライブに行くそうだ。そう言えば嘉門君は、カースタントも得意としていた。以前クールな走り屋の役で、顔色一つ変えずにガンガン峠を攻めていたシーン。後で合成じゃなくて、本人が運転していたと知ってビックリしたっけ。


 私はそんな情報を思い出しながら


「ドライブが趣味なんだね。いいな。私、一度は免許を取ろうとしたんだけど、やってみたらすごく怖くて取れなかったんだ。自分で運転できたら、どこにでも行けちゃうね。すごいね」

『そんなに大したことじゃないんですが……もし行きたいところがあるなら、俺が連れて行きましょうか?』

「えっ? 車に乗せてくれるの? でも大変じゃない?」


 私からすれば運転って、ずっと道を外れないように、前後の車とぶつからないように、視覚外からの飛び出しにも気を付けながら、鉄の塊を移動しなければならないって超絶大変な作業だ。私なら数分で気疲れでへとへとになってしまうので、大丈夫かなと心配したけど


『用が無くても乗るくらいなので。丸井さんの役に立てたほうが嬉しいです』

「わー、じゃあ、本当に頼んでいい? 実は道の駅とかパーキングエリアとか、プライベートでも行ってみたかったんだ。そこでしか食べられないグルメや美味しいお土産がたくさんあってね。最早ちょっとしたテーマパークだよ」


 芸能界でも私生活でも友だちは多いほうだけど、休日に一緒に遊びに行くほどの仲の子は、みんな運転が苦手だった。普段はマネージャーさんが送迎してくれるけど、プライベートな用事にまで付き合わせるのは悪い。だから道の駅やパーキングエリアは、たまに番組の企画で行くだけでプライベートで行ったことは無かった。


 友だちと一緒に行けたら絶対に楽しいな! とワクワクで食いつくと


『海とか山とか景観のいいところじゃなくて、食べ物をねだるの、丸井さんらしいですね』


 嘉門君の指摘に、私は「てへへ」と照れつつも


「見た目どおりの食いしん坊なので。遠慮なく食べ歩きますが、よろしいでしょうか!?」

『丸井さんが食べているところを見るの、好きなので楽しみです』


 ファンの人もそうだけど、みんな私の食いしん坊に寛容なの、優しいな。女性としてじゃなくてパンダが笹を食べている姿が可愛い的な意味だとは分かっているけど、ただの肥満女性が動物園の人気者扱いをされているなんて、むしろ光栄だよ。



 ところで私たちはお互いに芸能人で、しかも若い男女だ。スーパーモデルのようにシャープなシルエットの嘉門君と、プニプニボディの私では関係を見出すほうが難しそうだけど、当日はいちおうそれぞれ変装した。


 嘉門君は単に変装のためだけじゃなく瞳の色素が薄いので、外ではサングラスか紫外線をカットする眼鏡をかけることが多いそうだ。今日はサングラスだったが、嘉門君は日米のハーフなので、お洒落なサングラスに顔面が負けていないからすごい。


 ちなみに私の恰好を見た嘉門君は、少し意外そうな様子で


「男装して来たんですか?」

「うん。私はともかく嘉門君は女性人気が高いから。例え私のような太っちょでも、休日に女と一緒に居るところを見たら、ファンの子がショックかもしれないなって。いちおう友だちには男子中学生に見えると言われたんだけど、どうだろう?」


 今日は肩甲骨までの髪をまとめてキャップの中に押し込み、さらにフードをかぶっている。またふくよかさんゆえに大きな胸は、事前にちゃんとリサーチして『胸つぶしインナー』なる下着で押さえ込んでいる。服も靴もスポーティーで男の子っぽいデザインだし、今日は日焼け止めだけでメイクもしていない。


 友だちの言うように、これなら男子中学生に見えるんじゃないかなと、自分では自信があった。

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