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嘉門君とゲーム

 満腹ですぐに動くとお腹が痛くなるので、嘉門君にちょっと食休みしてから帰るように勧めた。お鍋が終わった時点で夜の8時になっていたけど、嘉門君は今日も車なので、お酒さえ飲まなければ終電を気にしなくていい。


「嘉門君。実は嘉門君が居てくれるなら、一緒にやりたいことがあるのです」

「なんですか? 俺とやりたいことって」


 私がおもてなし2回戦として嘉門君に勧めたのは


「なぜ俺とホラーゲームを?」

「これ名作ですごく感動するって評判で。ずっとやってみたかったんだけど、私は反射神経が鈍いうえにビビりだから。敵が出て来ると「ヒッ」てなっちゃって、全然話が進まなくて。嘉門君なら冷静に敵を撃てるかなって」


 『ゾンビハザード』は襲い来るゾンビを、銃や爆弾で撃退しながらストーリーを進めていく有名なアクションホラーだ。たくさんシリーズが出ていて、何作かごとに主人公が交代している。私が買ったのはシリーズの中でも特に感動的だと言われている、普通のお父さんが(さら)われた娘を助けるために、命がけでゾンビと戦うものだ。


 マイチューブにプレイ動画があるのだけど、これは本当に良さそうだったので自分で楽しみたかった。けれど、実際はいま説明したとおり、全然進めず今日まで積みゲーになってしまっていた。


 でも男の人はだいたいゲームが好きだし、これなら嘉門君も一緒に楽しめるから、かえって良かったかも。


 ところが嘉門君の微妙な反応に気付いて


「あっ、やっぱり私の代わりにゲームとか面倒臭い?」

「いえ、丸井さんの頼みならやりたいんですが……俺はゲームをしたことが無いので、期待に応えられるかどうか」

「えっ? 嘉門君、ゲームをしたことが無いの? 全然?」


 男の子なら特に、小学校の時に周りの子がゲームをやっていて「自分も」と、やりたくなるものだと思っていた。ジャンルはともかく全くゲームに触れずに育つほうが、今の世の中では難しく感じる。


 けれど嘉門君の家では


「うちは両親ともに遊びの無い人なので。架空の世界に時間を費やしてなんになると」

「本当にストイックだね。嘉門君のご両親」


 「厳しすぎでは?」と思わなくも無いけど、ご両親のストイックな教育方針の結果、こんなに素晴らしい息子さんに育ったのだから間違いとも言えない。


「でもゲームにはゲームの楽しさと感動があるから、私はゲーム推奨派です。特にこれは名作だって評判だし、嘉門君が良ければ、やってみませんか?」

「はい。丸井さんが勧めてくれるなら」


 単純に嘉門君にゲームの楽しさを教えたいのもあるけど、ホラーゲーム初心者だと言うなら、普段は感情控えめな嘉門君の焦りや驚きや恐怖など、未知の反応が引き出せるかもしれない。


 ゴメン、嘉門君! でもクールな嘉門君がアワアワしているところ、すごく見たい!


 しかし私の目論見とは裏腹に、嘉門君は突然ゾンビがグワッと迫っても


「……そこから来るとは思わなかった」


 ゲーム初心者ゆえに回避も攻撃もできず、しっかり襲われているのに「うわぁ!?」とも「ひぃ!?」とも言わず


「……ああ。また死にましたね」


 「俺が下手なせいで可哀想に」と、画面の中の自分の分身がゾンビにムシャムシャと食われる様を、無感動に見届けた。


 確かにゲームだし作りものだけど、昨今のCG技術は本物さながらで、これはR18G作品なのに。画面越しとはいえ、目の前の惨劇にこんなに無感情でいられるの、すごい。嘉門君は本物の死と断末魔を知っているのではないか疑惑が高まる。


 技術は素人でも冷静さだけはカンストしている嘉門君は、開始30分くらいは操作に戸惑っていたものの


「やり方、分かって来ました」


 さっきまで棒立ちで襲われたり、フィールドを逆走したりしていたのに急に覚醒して、熟練の動きでゾンビを狩り始めた。すごいのは動きだけでなく


「ここで挟み撃ちにする気か」


 嘉門君が呟いた瞬間、言ったとおりの出来事が画面で起こった。横で見ていた私はビックリして


「えっ!? すごい! どうして事前に分かったの!?」

「映画にも、こういう驚かせ要素はあるので。多分そう言う間だろうなと」


 突然の襲撃や建物の崩壊など、驚かせ要素が来る前の絶妙な『間』まで読みはじめた。嘉門君、戦士の才能があり過ぎでは?


 ゾンビハンターの才能を開花させた嘉門君は、そこからは全く詰まることなく怒涛の快進撃を見せてくれた。それでもゲームのボリュームが膨大なので、全クリまで時間がかかってしまい


「ゴメンね、嘉門君。6時間もぶっ通しでゲームをさせちゃって」


 評判どおりストーリーが最高すぎて「また今度」ができず、けっきょく最後までやってもらってしまった。ラストの感動による号泣が収まったあとで、非常識だったなと謝罪する私を


「いえ、俺もエンディングが気になったので」


 嘉門君はあっさりと許してくれただけでなく、ふわっと微笑んで


「楽しかったです、ゲーム。話も操作も」

「私も楽しかった! 嘉門君のプレイを見ているの!」


 自分でやるつもりだったのに、嘉門君にやってもらってかえって良かったと思うほど、彼のプレイはすごかった。ゲームの終盤とか、私には何がどうなっているのかすら分からない敵の全体攻撃を、嘉門君は見切って避けていたし。


「もし嘉門君が良ければ、ゲーム配信とかしたら、すごく喜ばれるかも!」


 アクションスターの嘉門君がゲームの世界でも無双してくれたら、絶対にファンは喜ぶと思ったのだけど


「1人ではちょっと。丸井さんと一緒なら楽しいですけど」

「そっか……」


 思わずしょんぼりする私に、嘉門君は


「すみません。せっかく勧めてくれたのに」

「ううん。むしろ嫌なことは嫌って言ってくれたほうがいいよ」


 ちょっとした思い付きを一緒に楽しめるならいいけど、負担になってしまっては申し訳ないと訂正したものの


「でも私が居れば楽しいなら、また今度一緒にゲームする? もっと嘉門君のスーパープレイを見たいので」


 本当にすごかったので控えめにねだると


「はい。丸井さんと2人なら、やりたいです」


 と今度は嘉門君も笑ってくれた。2人でやりたいことが増えた、とても楽しい夜だった。

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