サプライズ
真っ赤に染まった夕日が、最後の瞬きとともに山の陰に隠れた。
雲一つなく澄み切っていた大気が、夜を迎えるまでのしばしの間、太陽の残り火を受けている。
「明日も晴れるといいな。」
サトルは傍らにいたチサトに声をかけた。
「そう。」
サトルは自分の言葉とチサトの答えがかみ合っていないと思ったが、熱心にスマホで何かをやってるチサトが自分の言葉を意味のある言葉と思っては聞いていないことはいつものことなので気にしなかった。
「そろそろ帰ろう。」
サトルは時計代わりに見たスマホが、急速に茜色を失ってく景色に見合った時間を示しているのをみて声をかけた。
「うん。」
チサトはスマホをしまいながら、鞄をごそごそ探し始めた。
「捜し物?照らそうか?」
街灯はつきはじめているが鞄の中まで照らし出すほどの光量はない。
「大丈夫。」
そう言いながら、チサトは最初に探し始めたのとは反対側の小物入れのチャックを開けて軽い焦りの表情を浮かべながらまだごそごそやっている。
学校指定のリュックは割と容量が大きいせいか、小物入れといってもそう小さくない。
「あった。よかった。」
ほっとしたようにそう言いながら、チサトはリボンのついた綺麗な包装紙で包まれたものを取り出した。
だが、チサトは、見つけたものを片手で握ったまま、またスマホを取り出して見つめ始めた。
いつもよくわからないことをするチサトに付きあわさされているサトルにも、今回ばかりはさすがにチサトが何をやろうとしているのか理解できなかった。
だが、チサトはチサトなりに何か理由があって、いつもよくわからないことをやっていることをサトルは知っていたので、今日も黙ってそれにつきあう。
何人かが二人の横を通り過ぎて行くくらいの時間が経って。
突然チサトはスマホから目を離し、サトルに視線を移して、手に握っていたそれを差し出した。
「はい。誕生日おめでとう。ちょうど、この時間に産まれたんだよね、サトルは。だから、今年の誕生日のおめでとうの一番めは私だ。」
そう言って、チサトは満面の笑みで、少し高めの体温で暖められたプレゼントをサトルの手に押しつけてきた。