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親ガチャ

作者: 夏目 一世





「いや~、世知辛い世の中になったもんだ」


「ほんとにな、命あるだけ儲けもんなんて事は昔のことだぁ」


「今じゃ、産まれたくねぇなんていう奴の方が多くなっちまったよ」


 そんな事を話していると走ってくる影が遠くから一つ。


「おいおい、お二人さん聞いとくれよ、聞いとくれよ」


「どうしたんだい、そんなに急いで?」


「いや、神様がよ。ガチャガチャを作ったらしいんだよ」


「俺みたいな古いやつにはそんなハイカラな言葉検討もつかねぇよ。しわしくちゃってのか?」


「あんた、わざとやってんだろ、ガチャガチャってんだよ」


「おう、それがどうしたんだい」


「おっ、あんたは知ってんのかい?」


「あたぼうよ、馬車の車輪みたいなのをごりごりっと回して、景品が馬糞みたいにしてポロッと出てくるやつだろ」


「例えが汚いが、まあそうだ。お金をいれて回すとランダムで容れ物に入った景品が出てくるんだ」


「へぇ、それがどうしたんだい?」


「いや、実はよ。生まれ変わりを拒否する奴が増えたのは知ってるだろ。それでよ、下界に人を送んねぇと、ここがパンクしちまうらしいんだよ。そんで、何とかして神様は送りたいと考えた」


「それでそれで」


「下界じゃ、そーしゃるげーむっていう奴のガチャガチャが人気らしくてな。それにあやかって来世もガチャガチャできめようってんだ。つまり、来世の内容を景品にしようってことさ」


「おいおい、俺はお金なんてないぞ」


「それは心配いらねぇ、前世の徳がお金代わり」


「それで回そうってことかい」


「そういうこっちゃ」


「じゃあ行ってみるか」


「おうとも」


§  §  §


「これがガチャガチャかい?」


「そうでぇ」


「思ったより小っこいなぁ」


「確かになぁ」


「まぁ、まずは回してみるべ」


「透明な容器の中に、紙がはいってらぁ」


親の容姿

親の財力

親の年齢

親の権力

親の寿命

親の身長

親の運勢

親の声質

親の運動能力

親の頭脳

etc……


「なんじゃあ、こりゃ。どんだけ項目があんだ?」


「百じゃ足りないね」


「そりゃそうさ、現世の人間がどんどんと要望を言ったんだからよ」


「よくよく見てみると、全部親に関する項目じゃあねぇか」


「親の遺伝子やら財力やらを、子供が受け継ぐんだから親を選べば子供も上手くいんだろうって算段らしいよ」


「それなら本人の能力を自分達で選ばせればいいじゃねえか」


「そりゃそうだが、現世の人間が親ガチャっえ言い過ぎるから具現化しちゃったんじゃあねえの」


「そんなもんかぁ?」


「俺に聞かれても分からねぇさ、細けぇ事は気にすんな」


「それよりもさ。項目の横に評価が書いてあるだろ、この奇妙な文字だ」


「そうさ、ABCDE……Zの順で良い評価らしい」


「へぇそうかいAに近いほど良くてZに近いほど悪いってことかい。ヘンテコだねぇ。」


「そういうこった」


「どの項目が高いといいんだろうねぇ」


「自分が欲しいものが高いといいじゃねぇか」


「そうさなぁ、俺は一遍俳優になってみてぇよ」


「それじゃあ、容姿が必要じゃねぇか」


「どうなんだい、その項目は?」


「B」


「かなり良いんじゃねえか」


「そうだな」


「他は別に良いかな」


「で、どうすんだい?」


「その紙を持って神様とこに行くんだよ」


「そんで渡すのかい」


「そういうこった」


「どうやって渡すんだい」


「普通に渡すんだよ」


「右手かい左手かい」


「どっちでもいいだろうよ」


「賄賂は持った方がいいかい?」


「いらねぇよ」


「んじゃあ、行ってくるかい」


「おう、行ってこいや」


「俺らもぼちぼち行くとするかい」


「俺はちょっとばかしゆっくりしてから行くわ」


「そうかい、おれぁいってくんぞ」


「おう、行ってこい、感想聞かせてくれや」



 そんなこんなで下界では80年が経ちました。下界と天界では時間の流れが違いますので、待っていた男にとってはあっという間でございます。


「で、どうだったんだよ」


「いや、俳優にはなれんかったよ」


「そうなんか、てっきりなったかなと思っていたんだがね」


「いやぁ、遊びに遊んじまったよ。人間つうのは何かを成そうとすると短いもんだよ。遊んで終わっちまったよ」


「そりゃ、光陰()のごとしつうぐらいだからな。あっという間よ」


「矢のごとしだな」


「いやぁ、いま思うと勿体ないことしちまったなぁ」


「また、ガチャガチャを引いてみれば良いじゃあねぇか」


「現代で見てきたんだがよ。ガチャつうのは狙うと中々当たらないらしい。物欲センサーっていうんだと」


「へぇ、でも一回で当たったじゃねぇか」


「あんまり信用してなかったからな。ガチャガチャの中身通りになるかなんてよ。だからよ、あんまり狙ってなかったから、欲しいのが当たったんだよ」


「そういうもんかい。確かになぁ、紙切れ1枚で決まっちまうなんてよ。びっくりもんよな」


「おっ!あいつも帰ってきたみたいだ」


「おう、どうだったよ」


「俺はよ、貧しかったからよ。裕福な家庭で腹いっぱいメシを食ってきたよ」


「おうそうかい、いっぱい食ってきたのか」


「他はどうだったよ?」


「おうそれがよ、いっぱい食えたのは良かったけどな。勉強もいっぱいやってきて、そりゃあ大変だってもんよ」


「そりゃあお疲れや」


「でも良い暮らしが生涯出来たからよ。一概に勉強がって訳じゃあねぇかもなぁ」


「そうかい」


「お前さんはどうだったよ?」


「俺はまだいってねえよ。どんなのが必要か考えてる途中よ。何がいいかねぇ~」


「おれは運が必要だと思うねぇ」


「なんでだい?」


「いやぁ、人との縁つうのは運だからよ。いかに境遇が恵まれてても、周りが非道なら豊かな人生にはならねぇよ。人生つうのは人との関わりのことよ」


「なるほどなぁ」


「おれぁ、親の性格かなぁ」


「なんでだい?」


「そりゃあ、いくら他の項目が良くてもよ。きちんと育てて貰えなけりゃ、子供の頃にくたばっちまうしよ。他にも色々あるがぁ、挙げたらきりがねぇ。しっかりと見極めなきゃなぁ」


「なるどねぇ」


「さてとまた行ってくるとするかな」


「おう、行ってこいや」


「俺も行こうかね」


「お前さんは行かないのか?」


「俺は成り行きを見ているからよ」


「そうかい、じゃあ行ってくる」


「おう」


 二人が去った後、男は考えていました。何が必要なのかと。そんな折に、ひどくげっそりとした女がやって来ます。そんな女を見て、男は思わず声をかけました。


「お前さん、顔色が随分と悪いよ。大丈夫か」


「いや、大丈夫じゃない」


「どうしたんで?」


「下界で起こったことが辛くてね」


「良ければ、俺に話してくれねぇか」


「いいよ、私が産まれたのは平和な田舎でね

何不自由なく暮らしていたんだ。でもね、大きな争いが起こって、沢山の人が亡くなっちまった。母父も、弟も、姉も、夫もみんな亡くなっちまった。みんな夢があったんだ。父母は穏やか余生を送りたがっていた。近いうちに旅行に行く予定もあった。弟は、都会の大学で農学を学ぼうとしていた。憧れてた先生に教えて貰えると張り切っていたね。姉は仕事で評価されて、プロジェクトの主任を任された。いつかは、社長になってやるって意気込んでいたよ。

夫の夢はよく分からないがね。


全部、なくなっちまった。」


「無常だな」


「まだまだ来るよ、戦いの犠牲者は」


 女の後には、ずらっと項垂れた亡者の行列が続いていた。すすり泣き、嗚咽、叫び声。男は何も言えませんでした。何も。


§  §  §


「おい、どうしたんで。おめぇさんよ」


「いや、なんでもねぇさ」


「そうかい」


「どうだったよ、今回は」


「おう、聞かせてやらぁ。俺は良い項目がいっぱいあったんだがよ、病気でぽっくり逝っちまった。だから、満喫したとは言いがたいな」


「へぇ、なるほどね、健康が大事とはよく言うもんな」


「やっぱり、健康あっての生活だからな」


「おっ、やっこさんも来たようだぞ」


「おう、どうだったよ人生は?」


「親が犯罪者になっちまってよ、そりゃ、もう大変よ。学校では奇異の目を向けられてよ。子供の残酷さを知ったね。いやそれだけじゃねぇ、近所からも疎まれ、インターネットに晒されて人生満喫どころじゃねぇよ。人間の底知れねぇ悪意を味わったよ」


「そりゃ、災難だな」


「おおともよ、だからよ。親つうのは大事な要素つうわけよ」


「参考になる」


「まだ、お前さんは下界に行ってないのかい」


「おう、成り行きをもう少しな」


「そうかい、もういっちょ、俺達入ってくるよ」


「おう、行ってき」


 男達がいなくなった後、男の目の前にまた行列がやって来ました。

男は先頭の若い男に話しかけました。


「どうしたんで?」


「あぁ、飢饉だよ。全員食うのに困ってぽっくりさ。まず、口減らしで年寄りが、次に赤ん坊。子供。働ける大人って順にさ」


 男はげっそりと痩せ、頬がこけていました。目の下には色濃い隈が出来ています。先の行列とは違いすすり泣きすらも聞こえません。

 まるで、彼らはそこに存在しないかのように話し声すらも。


「じゃあ、縁があったら来世でな」


§  §  §


「おい、またぼーっとしてんのかい」


「おっ、お前さん達帰ってきたか。どうだったよ?」


「今世は競争だな、最初から最後まで気が抜けなかったよ。疲れちまったね。残ったのは何だったんだろうね」


「俺んところは、嫉妬で大変だったよ。周りがすごい人ばっかりでさ。終いには、自分を良く見せようと嘘までつくようになっちまった。それで、塗り固めた自分つうのは虚しいもんよ。もう嘘はつきたくないもんだ。」


「二人とも大変だったようだね」


「お前さんはまだ行ってないのかい?」


「あぁ、俺は産まれたくねぇや。聞くだけでお腹いっぱい。下界で食べるもんはねぇな」






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