9話「侍女は一斉に辞めてしまいました」
一斉退職されたために城内でこまごまとした仕事をする人がいなくなってしまい、急遽よその部署から人が集められた。
そのほとんどが男性であった。
「侍女が一人もいなくなってしまうとは……困りましたなぁ」
「そうですなぁ」
「やはりあのカサブランカとかいう女の影響が悪い方に出ているのでは」
「そうやもしれませぬ」
家事などしたこともない男性たちは、呆れたように、そんな話をしていたのだが――今度は彼らがカサブランカに目をつけられてしまった。
まず、召集された男性陣のうちの一人が、カサブランカに痴漢行為をしたということで即日処刑された。だが当然これは偽りの罪、彼の周囲はそのことを理解していた。それにより男性たちはカサブランカ下ろしの活動を始める。が、その活動に激怒したカサブランカの命令によって、男性たちも次から次へと投獄されたり処刑されたりしていって。
やがて、城からほとんど人の姿が消えた。
「なぁカサブランカ、ちょっとやり過ぎなんじゃ……」
この頃になってようやくカサブランカの恐ろしさに気づき始めたルミッセルだったが。
「何を言うの!? ルミッセル。貴方、あたしの味方だったのではなかったの?」
時既に遅し、であった。
「いや、そうだ、味方だ。でもだからこそ」
「だったら何? あたしを傷つけるようなこと言わないで! 敵対するような発言をしないで!」
自信過剰になっているカサブランカはルミッセルに対してですら高圧的に言葉を投げつける。
「だから」
「何だっていうの!? 貴方まであたしを悪者にする気!?」
「違う……」
「そうよ! 貴方がしたのはそういうことなのよ! 分かっていて? 貴方はさっきあたしを傷つけたの!」
もはやカサブランカを止められる者はいなかった。
「聞いてくれ、ここままじゃカサブランカが」
「何? 何だっていうの?」
「――処刑されるかもしれない」
ルミッセルの口から出た究極の言葉。
これにはさすがのカサブランカも言葉を詰まらせた。
「な……何を言っているの?」
「父さんがそれを考えているみたいだ」
「ちょっと待ちなさいよ、あたしが? どうして? あたしは何も悪いことなんてしていないじゃないの!」
「だからやり過ぎなんだって」
「何をよ!」
食ってかかるカサブランカに。
「……理不尽な処刑」
ルミッセルは小さく答えを返した。
「な、何よそれ……どうして今さらあたしがそんなこと……」
カサブランカの瞳が揺れる。
「とにかくもう大人しくしていてくれ」
「ちょっと! どういうことよ! 虐められても我慢しろっていうの!? このあたしに!? 無理に決まってるじゃないそんなこと!」
「じゃあ処刑されても知らないからな」
意外にもさくりと言ってのけるルミッセル。
彼のカサブランカへの想いは既に潰えかけている。
「待ってよ! 処刑なんてあり得ない、そんなこと誰にも言わせないで! この先もずっと!」
「……それは、無理だ」
「どうしてよ!? なぜ今になってそんなこと言うの!?」
「もういいだろ。ここまで付き合ってきたんだから。じゃ、そういうことなんで」
「ルミッセル! 何なのよ! もうっ……ムカつく」